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工学には社会を変える力、そして困った人を支援する大きな力があるー「PARTNER MOBILITY ONE」開発の裏側

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2023.02.01

工学には社会を変える力、そして困った人を支援する大きな力があるー「PARTNER MOBILITY ONE」開発の裏側

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「PARTNER MOBILITY ONE」は、パーソルR&D株式会社とLe DESIGN株式会社が共同開発を手がける複数人乗りの新型モビリティ。

利用者が目的地を伝えると、AIが安全に目的地まで案内をしてくれる対話型AI自動運転システム「Intelligent Mobility System」が搭載されており、大型のテーマパークや観光地、介護施設や医療機関などでの実装が期待されています。

2022年10月24日(月) に行われた完成セレモニーには多くの報道各社が取材に訪れ、テレビ等のメディアで紹介されたことで、全国の自治体や施設から高い関心が寄せられるようになりました。

今回の記事では、「PARTNER MOBILITY ONE」の開発を手がけた東大輔教授にインタビュー。開発の経緯や、本モビリティに込めた想いを伺います。



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<TOPIC>
・大学の研究で終わらせない。新型モビリティの社会実装を目指して
・モビリティ開発が大きく前進したきっかけ
・安心安全な機能と、全ての人が楽しめるデザインの追求
・なぜ「パーソナル」な乗り物ではなく「パブリック」な乗り物を創ったのか?
・新型モビリティ開発における学生の関わり
・モビリティ開発を目指す学生に必要な素養とは
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大学の研究で終わらせない。新型モビリティの社会実装を目指して

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ーまずは簡単に自己紹介をお願いいたします。



東 大輔教授(以下、東 教授):
交通機械工学科で、航空流体力学やプロダクトデザインを教えています。 また、2015年に本学に開所した「インテリジェント・モビリティ研究所」にて、「乗りものに知性を。パートナーのような乗りものを創造する」というスローガンのもと、魅力的なモビリティ社会実現のための研究を進めています。
そして、モビリティを強みとする本学の研究開発成果を社会実装し、より豊かな社会の実現に貢献することを目的に、2022年3月に久留米工業大学発のベンチャー「Le DESIGN株式会社」を設立しました。
インテリジェント・モビリティを用いた新サービスの考案や、それらに関連したプロダクトの開発、製造、販売を行っています。



ーモビリティ開発への想いをお聞かせください。



東 教授:
開発当初からの目的は、障がいのある方やご高齢の方がご自身の知的スキルや能力を活かして、さらに社会で活躍できるようにモビリティ技術でお支えすることです。

近距離モビリティ製品の開発・生産を行っているWHILL株式会社の電動車いすをベースに、「対話で行き先を相談できるお友達のような乗り物」を作ることを目的として、自動運転モビリティのシステム開発を進めてまいりました。



モビリティ開発が大きく前進したきっかけ

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ーどのような経緯でこの事業がスタートしたのですか?



東 教授:
2018年に、本学は文部科学省が推進する「私立大学研究ブランディング事業」のタイプA(社会展開型)に申請し、「先進モビリティ技術で多様な人々が能力を発揮できる、Society 5.0に基づく『いきいき地域づくり』」という事業計画で採択されました。



▼私立大学研究ブランディング事業とは...

学長のリーダーシップの下、大学の特色ある研究を基軸として、全学的な独自色を大きく打ち出す取り組みを行う私立大学等を対象に、文部科学省が経常費・施設費・設備費を一体として支援するものです。

本学が採択を受けたタイプA(社会展開型)とは、地域の経済・社会、雇用、文化の発展や特定の分野の発展・深化に寄与する研究で、 特定の地域あるいは分野における、地域の資源活用、産業の振興・観光資源の発掘・文化の発展への寄与、企業や雇用の創出等を目的としています。

平成30年度に私立大学研究ブランディング事業のタイプA(社会展開型)に申請した115校の内、選定されたのはわずか11校でした。なお、中国・四国~九州・沖縄地域で選定された学校は、久留米工業大学のみとなっています。

https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/07021403/002/002/1379674.html



この採択が契機となり開発が大きく前進することになりました。

国や自治体、トップ企業から数々のご支援・ご協力をいただき、「大学の研究で終わらせない。必ず社会実装する」という信念でこの事業に取り組ませていただいています。



安心安全な機能と、全ての人が楽しめるデザインの追求

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ー当初は「対話型AI自動運転車いす」の開発を進められていたとのことですが、この製品にはどのような特徴がありますか?



東 教授:
主な特徴は、「屋内と屋外に両方に対応できる自動運転システム」「利用者に合わせて行き先を提案できる対話システム」「障害物の衝突を回避する人工知能システム」「スマート端末からアクセス可能な専用アプリ」といった機能があります。

また、無人の自動運転で困りごとが生じた時に、遠隔操作やTV通話でサポートする「リモート手助けシステム」を搭載しています。これは5G回線を用いたシステムで、NTTドコモ様のご協力をいただき実現可能となりました。

また、最大の特徴として、美術館・観光地・病院・空港など、さまざまな活用シーンに容易にフィットできる「プラットホーム型のシステム」であることが挙げられます。



ーどのようなシーンでの実証試験を行いましたか?



東 教授:
まずは佐賀県様にご協力をいただき、佐賀県立美術館内で自動運転+AI音声解説の大規模な実証試験を行いました。

次に、東京ドームシティ様にご協力をいただき、ガイド付きイルミネーションライドツアーを実施しました。 イルミネーションライドツアーのガイドは、車いすの速度に歩行を合わせながら私が行いました。実証試験にご協力いただいた方々に感想を伺うと、「ガイドのおじさんが面白かった」との声を多数いただき、観光サービスにおいて、移動支援だけではなく「何が体験できるか」という外部コンテンツの重要性を認識しました。

この経験を踏まえて、国家プロジェクト「観光DX推進に向けた技術開発及び地域環境モデルの構築」に採択されることになりました。名付けて「どこでもテーマパーク」事業です。



ーとてもキャッチーな事業タイトルですね!どのような事業ですか?



東 教授:
「どこでもテーマパーク」事業は、自動運転モビリティにVRやMRゴーグルを組み合わせることで、その土地の特徴を活かした先進デジタルアトラクションを構築できるようになります。

例えば、九州を代表する恐竜博物館「いのちのたび博物館」横の公園内で、安全な自動運転モビリティに乗車して、MRゴーグルを装着すると目の前に恐竜が現れる「デジタル恐竜パーク」や、北九州市の世界遺産「官営八幡製鐵所」にて、自動運転モビリティと追従モビリティに乗車し、VRを用いて日本近代化の歴史を学ぶ多人数参加型ガイドツアーを実施しました。

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▲「デジタル恐竜パーク」(左)公園内を乗車する様子。(右)VRゴーグルを通して見た公園内の様子。見慣れた公園に恐竜が現れる。



ー参加者の反応はどうですか?



東 教授:
ほぼ全ての参加者に喜んでいただいている印象です。

官営八幡製鐵所のガイドツアーに参加した小学生からは「私たちが住んでいる地域がこんな風に日本を支えていたことを知れてうれしかった」と感想をもらえました。それを聞いて、私も子どもたちに身近な歴史に触れる機会を提供できたことをうれしく思いました。

また、吉野ヶ里遺跡での事業を想定した実証試験を行った際には、参加者の女の子が「こんな乗り物があるなら、家に篭りがちなおばあちゃんを連れてきてあげればよかった」と言ってくれました。私が何も言わなくても、「特別な想い出を、大切な人と同じ目線で共有してほしい」という開発者の思いを女の子が受け取ってくれていたことに、たいへん感動いたしました。



ープラットホーム型のシステムが存分に活かされていますね。このモビリティが、観光地で活躍する場面がありありと目に浮かびます。



東 教授:
このように対話型モビリティは観光サービスと高い親和性があり、ガイド機能やXR(クロスリアリティ)と組み合わせた外部コンテンツが作りやすいところにフィットします。まずは観光やショッピングなどの領域からサービスを開始して事業の足場を固め、ゆくゆくは医療現場や介護施設への実装に取り組みたいです。



なぜ「パーソナル」な乗り物ではなく「パブリック」な乗り物を創ったのか?

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ー単独で乗る「車いす」の開発が進んでいましたが、今回なぜ「複数人乗り」の新型モビリティを創ったのですか?



東 教授:
「対話型AI自動運転車いす」の開発当時は、障がいのある方やご高齢の方の医療支援をしたいという想いでいましたが、車いすでの実証試験を進める中で、車いすの形は一部の障がいのある方やご高齢の方にとって抵抗感があることを知りました。年齢や身体的ハンデの有無を問わず、全ての方が使いやすいサービスでなければ、障がいのある方やご高齢の方にとって使いにくいんだということがよくわかったのです。

ここで、いわゆる「ユニバーサルデザイン」の必要性を感じ、車いすのように個人が使う「パーソナル」な乗り物ではなく、子どもから高齢者までどのような方にとっても楽しめる「パブリック」な乗り物にしようと決めました。



ー乗る人を限定しない設計にしたんですね。



東 教授:
そうですね。また、実証試験では車いす利用者の隣をお連れの方が一生懸命歩いて付いてくるというシーンを何度も見かけました。 私たちはモビリティ開発において「特別な想い出を、大切なひとと同じ目線で共有してほしい」という想いがあります。ですから、観光地での利用には、独り乗りは難しいなということを改めて感じたのです。 そのような想いから、複数人乗りの新型モビリティ「PARTNER MOBILITY ONE」が生まれました。

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2015年から久留米工業大学のインテリジェント・モビリティ研究所が研究開発と実証試験を進めてきた対話型AI自動運転システム「Intelligent Mobility System」が搭載された対話型モビリティ。

本モビリティは、利用者がアプリで「PARTNER MOBILITY ONE」を呼び出すと、最寄りの車両が時速3km/hという走行速度の無人運転で迎えに来るシステム。2〜3人が荷物とともに乗車可能であり、乗車後に行き先を伝えると、自動運転で安全に目的地までご案内します。XR(クロスリアリティ)、プロジェクションマッピングなどと連動した観光ガイドも行うことができるため、新たな観光体験をお楽しみいただけます。 また、直線を基調としたシンプルなデザインのため、天板部に収納ボックスや各種センサー、ロボットを容易に搭載でき、施設内の配送業務や安全監視業務、移動広告など、様々な用途にご活用いただけます。

車両開発の企画・統括は久留米工業大学が担当。 設計開発は、自動車開発で高い技術と実績を有するパーソルR&D、車体のデザインはLe DESIGNが担当しました。



ーさまざまな観光地で活躍が期待できそうです。導入が決定した施設や自治体はありますか?



東 教授:
佐賀県の吉野ヶ里遺跡公園での導入が決定しており、実証試験を進めています。そのほか、本格導入に向けご検討いただいている施設や自治体様もいらっしゃいますので、決定次第お知らせいたします。



新型モビリティ開発における学生の関わり



ー今回の新型モビリティの開発に本学の学生は関わっていますか?



東 教授:
はい。実際の自動車メーカーの車両開発でもそうですが、モビリティ開発には「開発部隊」と「研究部隊」があり、研究の分野で学生に関わってもらいました。

具体的な研究内容は、今回のモビリティには搭載しておりませんが、 走行中に衝突を防止するセンサーや安全性を高めるシステム開発などです。



ー学生の研究内容は今回のモビリティには搭載されていないんですね。



東 教授:
はい。学生たちは、実際の製品にはまだ落とし込めない段階の先進的な技術を研究として進めています。

実際の車両開発には、しっかり安全性が確立しているシステムを用いるので、パーソルグループの方々や車の開発経験がある教員による開発部隊が開発を進めました。

研究分野に関しては、学生と教師陣が一緒に研究を進めて、安全性や信頼性が高まってきたら、実際の車両に落とし込んでいくといった工程です。



ー実際の自動車メーカーの開発と同じような工程を教授と学生が一緒になって進めているんですね。



モビリティ開発を目指す学生に必要な素養とは

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ーモビリティに高い関心を持って勉強されている学生も多いと伺っています。



東 教授:
そうですね。本学のインテリジェント・モビリティ研究所の取り組みを見て志願してきてくれる方も多いです。



ー本学で学んだ学生は、卒業後どのような企業で活躍できますか?



東 教授:
自動車メーカーや自動車開発の関連企業などで活躍できると思います。

今どのような自動車メーカーも、自動運転やモビリティを用いた新しいサービスの開発に力を入れています。「システム開発」という意味で言うと、プログラミングやAIを勉強した学生が活躍できるようなイメージがありますが、まずは自動車の基本的な構造の知識や技術への理解が必要です。



ー先進モビリティの世界で活躍するためには、自動車の基本的な構造の知識や技術を理解することと、プログラミングやコンピューター技術などの新しい情報技術を理解することの両方が大切なのですね。




東 教授:
はい。そして、もう一つ大切なことは「デザイン思考」を養うことです。

時代は「モノづくり」から「コトづくり」に移行しています。これまでのプロダクトデザインはモノのデザインに重きを置いていましたが、これからはサービスをデザインする時代です。物を作ること自体が目的になるのではなく、物を作った先の世界、つまり作ったものが社会にどのように影響するかを考える視点を持ってデザインする力が必要なのです。

そのためには、まずはデザインそのものの力を身に付けること。
そして社会課題を理解し解決するための技術がわかり、それをビジネスに落とし込む経営センスを養っていかなければなりません。本学のインテリジェント・モビリティ研究では、そのような視点でプロダクトデザインの研究・開発を進めています。



ー将来、モビリティ開発の仕事を希望している中高生も多いと思います。そのような学生に必要な素養とは何でしょうか?



東 教授:
普段から社会の動きをよく見て、社会課題に興味を持ってほしいと思います。その社会課題を解決するために、「どのような知識や技術が必要なのか?」「どうすれば困っている人を助けられるのか?」ということを考えてほしいのです。その目的が決まれば、自ずと何を勉強すればいいか見えてきます。



ー作った物がどう社会に影響するか、その先を見据えて勉強することが大事なのですね。



東 教授:
はい。自動車業界、モビリティ業界は既に「モノづくり」より「コトづくり」を重視しています。単純に「物を作る」だけではなく「物を作って誰の役に立ちたいのか?」「どう社会の役に立ちたいのか?」を考え、サービスまでデザインしていくことが大事だと思います。

工学には、社会を変える力、そして困った人を支援する大きな力があります。乗り物が好きだという気持ちと共に、課題を解決するツールとして工学の学びを深めれば、社会へ飛び出して活躍できる力が身につきますよ。



ー東教授、ありがとうございました。



「モノづくり」のその先、社会や人々への影響を考える「コトづくり」の考え方がとても印象に残りました。今回発表された新型モビリティ「PARTNER MOBILITY ONE」はその「コトづくり」を体現した製品であり、単なる移動支援ではなく「特別な想い出を、大切なひとと同じ目線で共有できる」という付加価値で人々を幸せにします。

また、モビリティ業界で活躍する人材となるためには、開発から社会実装、事業確立までを総合的に考える「デザイン思考」を持つことの大切さもよく理解できました。

本学では、授業や研究を通して、モビリティ開発のための知識や技術だけではなく、これからの「コトづくり」社会でとても重要な「デザイン思考」も身に付けることができます。

社会を変える力を持つ、多大な可能性を秘めたモビリティ開発の世界。次世代モビリティ開発に興味のある方や社会課題の解決を目指している方は、ぜひ、東教授の元で工学を学んでみませんか?



取材ライター:小林 祐子

株式会社サンカクキカク デザイナー / ライター

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