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100年間、久留米絣の生産を支える「Y式織機」修繕プロジェクト!

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2022.09.20

100年間、久留米絣の生産を支える「Y式織機」修繕プロジェクト!

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久留米工業大学は2018年に広川町と包括連携協定を結び、豊田式鉄製小幅動力織機(通称:Y式織機)の修繕プロジェクトに取り組んでいます。

Y式織機とは、トヨタグループの創始者である豊田佐吉が1915年に開発した動力織機です。100年以上経った現在も久留米絣の生産に使われています。

今回は、本プロジェクトの取り組みについて、機械システム工学科の澁谷秀雄教授にお話を伺いました。

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<TOPIC>
・修繕プロジェクトの背景とは
・最新機器の導入ではなく「修繕」を進める理由
・「職人の経験と勘」をAIに学習させる
・ネットや参考書がなかった時代―豊田佐吉の発想を学ぶ
・大学の研究開発が地域文化と技術の継承を支える
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修繕プロジェクトの背景とは

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なぜ今回の修繕プロジェクトをお受けになりましたか?

澁谷教授:
最初は、地元の歴史ある織機を機械システム工学科の学生の教材として使ってみたいと思いました。
100年以上前に生産されていた機械がどのように動いていたのか、実際に機械をバラして図面を引いて、製造して、もう1回元に戻してみたり、モーターの回転運動を直線往復運動や揺動運動に変えてみたり...そういったことを授業でやりたいなと思いました。

もともとは授業で教材として活用するために依頼をお受けになられたんですね。

澁谷教授:
はい。しかしお話を受けた際に「実はこのY式織機で織る久留米絣に、困り事があって...」と、職人さんだけでは対応できない問題があるとのご相談を受けました。
お話を深く伺いながら、職人さんの課題解決に大学側も協力できそうだと思い、現在の「修繕プロジェクト」に発展する運びになりました。

最新機器の導入ではなく「修繕」を進める理由

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「修繕プロジェクト」の背景を教えてください。

澁谷教授:
まず、100年前の機械を動かすにはそれなりのノウハウが必要で、職人さんごとに表現できる得意な柄、苦手な柄があるそうです。その個性を表現できるのは、この機械と職人技があってこそ。職人さん方は「必ずこの機械でないと、久留米絣を織ることはできない」と言います。
しかし、Y式織機の生産は既に終わっていますから、今後もこの機械で久留米絣を織り続けるためには修繕しながら動かすしかありません。

なぜ最新機械の導入ではなく、「修繕」なのでしょうか?

澁谷教授:そうですね...結局、「古い機械が動かない」などという問題は、全て最新の機械に切り替えてしまえば解決するかもしれません。久留米絣を生産できる最新式の機械を開発できたら、そちらの方が効率も良く大量生産も可能でしょう。しかしそれだと、その機械さえあれば誰でもどこででも織れるのですから、久留米で織る必要がない。それはもう久留米絣とは呼べないかもしれません。それに、全てをデジタル化にするとどんどん技術だけは外部に流出してしまうので、どこかにアナログ的な要素を残した方が文化や仕事が守られると思います。

ですが、Y式織機の生産が終わった現在、不具合が出たときはどう対処されているのでしょうか?

澁谷教授:代替部品の生産もされていないので、修繕の際は廃業した方の機械を譲り受けて、分解した部品を再利用しています。しかし、それもいずれ限界がきます。まずは、そういったことに困らないように、補修部品を作る技術開発を進めています。また、修繕を進める一方で、機械の一部機能をアップデートする研究開発にも取り組んでいます。

修繕だけではなく、新しい技術開発もされている?

澁谷教授:はい。職人さんとやりとりする中で、機械を扱う上で必ず職人の手仕事が必要な工程と、ここは全て機械に任せてもいいだろうと言える工程があることを知りました。例えば『巻き取り』という工程は人がするにはとても労力のかかる仕事ですが、 機械に任せても厳密に柄に影響しません。職人さんとの話し合いの結果、ここは自動化する流れになりました。ただ、あまりにハイテクすぎると職人さんが扱えないので、我々は職人さんが扱える技術で自動化を実現させたいと思っています。

機械技と職人技のバランスを見ながら、機械のアップデートも提案されているんですね。

澁谷教授:「この機械を使う職人さん、ご本人の意向を修繕・改善に反映する」ということを心がけています。機械はただの機械ではなく、職人さんとチームです。チームとして仕事ができるように修繕・改善を施してあげたいと思っています。

「職人の経験と勘」をAIに学習させる

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織機の修繕のほか、どのようなアップデートを予定されていますか?

澁谷教授:Y式織機は金属のほかに木や革も使われているので、気温や湿度によっては膨張収縮がおこり、突然動かなくなってしまうことがあります。それからの調整が難しく、調整技術を持った職人さんが引退されるともう誰も調整できなくなってしまうんですね。そこで、まずは機械の挙動を検知して、機械が止まってしまう前に不具合や再調整が必要な箇所をお知らせするセンサーのようなものを開発したいと思っています。職人さんは機械の音やわずかな振動の変化から、機械のどこが悪いのか、どこを調整したらいいのかを把握するそうです。でもそれは長年の経験によるもので、誰にでも真似できることではありません。どういった音が出た時に機械のどこに不具合が出るのかを突き止めて、わかるようにしたいと思います。

AI技術の導入も検討されているとか?

澁谷教授:本学のAI応用研究所と協力して、「柄ずれの近未来予測」をやろうとしています。柄ずれとは、最初はしっかりと柄が合うように織れていても、次第に柄がずれてきてしまうことがあります。「現段階で糸がこれくらいずれているから、それを積み重ねていくと5分後にはこのぐらいの柄ずれが生じる」ということがわかれば、早い段階で修正を入れることができるようになります。

AIが数分後の未来を予測して、その情報をもとに軌道修正が出来るんですか。

澁谷教授:はい。しかしながら、柄ずれも「多少ずれているから、心地がいい」という加減があるそうです。そういった感性を定量化するのはなかなか難しいですよね。AIによる柄ずれの近未来予測は、職人さんが「これぐらいのずれが心地よい」と感じる加減を表現するために使っていただけるといいかなと思います。

AIはあくまで職人さんの表現のサポート役なのですね。

澁谷教授:職人さんが持っている経験と勘を、私たちは理解できません。それをAIに理解させて、職人さんが柄を表現しやすいように活用していただきたいなということを今考えています。

ネットや参考書がなかった時代―豊田佐吉の発想を学ぶ

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今回のプロジェクトを通して、学生たちにどのようなことを学んでほしいですか?

澁谷教授:学生たちには「久留米絣」というこの地域の素晴らしい伝統工芸品があることや、 100年前にこのような機械を考える人がいたということを知ってもらいたいです。100年前はこの機械を作るための参考書や資料、ネットもなかった時代ですので、きっと豊田佐吉さんは独学で開発されたんだと思います。機械構造を分解してみると、当時の工夫が見てとれてとても素晴らしいです。メカでできない部分や、現代ならアルファゲルといった衝撃吸収材で対処するところも、革や木材など他の材料で上手に工夫されています。学生たちに伝えたいことは、物事ありき、方法ありきで物を作るのではなく、豊田佐吉さんのような発想―今あるもので何とか実現しようとする姿勢だったり、「どうすればものができるのか?」「望んでいるものができるのか?」というところを、ぜひ分析していただきたいと思います。

大学の研究開発が地域文化と技術の継承を支える
地域文化の発展、保全に取り組んでみていかがですか?

澁谷教授:私の目標として、次世代と100年後にもこの織機と技術を残したいと思っています。 そもそも、100年前に豊田佐吉さんがY式織機を発明する前までは、久留米絣は手織りの世界でした。これまでの歴史を遡ると、その当時に最先端の技術が入ってきた場面が至る所にあると思います。私たちも、職人さんが許す範囲で導入可能な技術を加えて、この仕事と文化を次世代に繋げていきたいですね。

昔のやり方をそのまま残すのではなく、最先端の技術を採り入れながらさらに文化を発展させていくということですね。

澁谷教授:そうですね。私たちは職人さんを影から支える存在であったらいいなと思います。職人さんがこの機械で自分の得意な柄を出す。そこに専念できるような環境を作りたいです。それと、こういった100年前の機械が、広川町のように現役で大量に動いている土地柄ってほとんどないんですよね。この機械そのものが観光資源になると思います。町の文化的財産としても次世代に繋げていきたいです。

澁谷先生、本日はありがとうございました。

これからY式織機がどのようにアップデートされるのか、そして本プロジェクトによって地域文化はどのように発展していくのか、今後を楽しみに見守りたいと思います。

久留米工業大学では、積極的に地域連携活動に取り組み、地域文化の保全・発展に努めています。
地域貢献としてだけではなく、学生たちに「地域文化への興味・関心」を与え、また、学生たちが地域社会に自らの学びをどのように活用できるかを考えるきっかけにもなっています。

今後もぜひ、久留米工業大学の地域連携の取り組みに注目してみてください。

取材ライター:小林 祐子
株式会社サンカクキカク デザイナー / ライター

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