日本の主要産業を支える「自動車工学」という学問、その内容や将来性とは?

工学教育 未来の乗り物・ロケット

技術力に優れた日本では高性能・高品質な自動車を製造する産業が発達し、国内需要に留まらず輸出製品としても大きなウェイトを占めています。

工学部やそれに類する学部を設置している大学や専門学校では、自動車工学を学んで将来の就職に活かすことが可能です。

本稿では自動車工学がどのような学問であるのか、自動車工学の今後や知識を活かせる業界などを紹介します。

自動車工学とはどんな学問?

自動車工学とは自動車の製造に関わる知識・スキルを体系的に学ぶ学問であり、一般的には機械工学の一種として分類されています。

日本で自動車産業が発達したのは第二次世界大戦後の高度経済成長期であり、産業の発展と共に自動車工学の研究も急速に進みました。

現在、自動車は人々の日常生活を支える移動手段として日常的に利用されており、自動車工学は社会貢献という意味で大きな役割を果たしています。

自動車工学は人々の暮らしを便利にするだけでなく、安全を守るためにも必要な学問です。

自動車工学で学ぶ内容

自動車工学では学術的な知識や研究というよりも、実際の現場で役に立つ実践的な内容を学ぶことが多いです。ここでは自動車工学で学ぶ主な内容を4つに分けて解説していきます。

自動車の原理

自動車を製造するためには、まず自動車が動く原理についての理解が必要です。

吸気・圧縮・爆発・排気というガソリンエンジンの基本的プロセスはもちろんのこと、左右に曲がるためのハンドルや減速機構であるブレーキの仕組みについても学びます。

走る・曲がる・止まるの3つは自動車の基本動作であるため、自動車工学の根本となる部分です。

自動車の装置や機能

自動車は膨大な部品から各装置が構成されており、それぞれが異なる機能を持っています。

自動車工学ではこうした装置の名称や機能について、網羅的な知識を身に付けていくので留意しておきましょう。

車体を形作るシャーシや内部で機能する電気パーツなど、その種類は多岐に及びます。装置・機能についての学習は、自動車の原理と併せて基礎的な知識となっているため、教育機関では1~2年次の初期段階から学ぶのが通例です。

自動車の企画・構想・設計

企業が自動車を開発する際には、まず製品としてどのようなコンセプトを掲げるのかを決めるところから始まります。

ターゲット層や消費者ニーズを鑑みた上で、競合他社の製品に負けない企画を打ち出す必要があるでしょう。

車体構造・内部配線・物理法則などの観点から、実際にどのような条件であれば開発可能かの判断には自動車工学の知識が求められます。

したがって、企画・構想・設計に関わる知識やノウハウも自動車工学の学習内容となっているのです。

検査技術・整備技術

自動車工学では車両の検査、及び整備において必要な技術を身に付けることができます。

走行距離や使用環境にもよりますが、一般的な自動車の耐用年数は10~15年程度と言われています。乗り換えまでの期間、車両を安全な状態に保っておくためには定期的な検査・整備が必要です。

日本では普通乗用車の場合、新車登録の3年後、それ以後は2年ごとの車検が義務付けられているので、自動車の検査・技術を有する人材は常に求められています。

自動車工学と関連する学問

複雑な構造の製品を作るための自動車工学は、様々な学問と隣接した関係にあります。こうした隣接領域からの知識を役立てるという意識も重要でしょう。

以下は自動車工学と関連性の深い学問の一例です。

機械工学

機械工学は車体の安全性を確保するために重要な役目を果たします。製品のほとんどが機械部品で成り立っている自動車にとって、機械工学は欠かせない知識です。

機械工学では主に「力学」という理論を用いて、機械が動くための仕組みや動作した際の力のかかり方を学びます。

機械力学・流体力学・熱力学・材料力学の4つを軸にして、機械の設計・製作・運用までのトータルプロセスに必要な知識を身に付けます。

参考記事:
機械工学って何を学ぶの?学ぶメリットや将来性・就職を有利にする資格なども解説!
機械工学分野はこれからどうなる?技術の進歩と社会変化から機械工学の将来性を考える

電気工学

電気工学はエネルギーとしての電気に着目し、発生原理や制御方法などを学ぶ学問です。

電気工学においては、効率的な発電と輸送を学び大規模システムなどに活用する「強電」、光通信や半導体などのように電気を情報の伝達媒体として活用する「弱電」の2つを主に取り扱います。

従来のガソリン自動車においても必要な知識ですが、今後クリーンエネルギーとして電気の活用が進んでいけばさらに重要度の高い学問となるでしょう。

参考記事:
電気工学とはどのようなことを学ぶ?学ぶメリットや電子工学との違い、進路としての就職先などを解説!

情報工学

ネットワーク技術とデバイス開発の加速によって、世の中は膨大な情報が溢れるIT社会となりました。これらの情報を工学的に収集・分析して人の役に立てるのが情報工学です。

例えば、カーナビは周辺道路の構造や渋滞状況といった情報を収集・分析することにより、ドライバーに最適なルートを提案するシステムです。

情報工学では先進技術であるAIの研究・開発も進められており、自動車業界への導入も積極的に検討されている分野です。

宇宙工学

意外なところでは宇宙工学の知識も自動車工学で学ぶことができます。

宇宙工学は基本的に有人ロケットや宇宙探査機、人工衛星の開発に必要な知識を身に付ける学問です。その中には流体力学や材料力学なども含まれているため、自動車工学に通じる点も少なくありません。

複雑化した自動車の車載システムを管理・制御するためには、宇宙工学の重要な要素の1つである制御工学の知識が役立ちます。

人が利用する乗り物を作るという意味では、自動車工学と宇宙工学は歴史的に近しいバックグラウンドを持っているのです。

参考記事:
航空宇宙工学とはどのようなことを学ぶ?航空宇宙工学の基本から卒業後の進路までをご紹介

自動車工学を学ぶと活躍できる業界

理系学生は大学で学んだ知識を直接的に活かせる業界へ進む人が多いため、進学前に卒業後の進路をある程度見据えておきたいところです。自動車工学を学んだ学生は、次のような業界で活躍しています。

自動車業界

自動車工学を学んだ人材が進む業界として、もっとももポピュラーなのは自動車業界でしょう。

しかし、一口に自動車業界と言っても、その構造は様々な業種の企業から成り立っています。例えば、自動車を製造するには自動車メーカーに就職することになりますが、その自動車を作るためには部品メーカーやタイヤメーカーからの仕入れが必要です。

さらに言えば、これらの部品・タイヤメーカーは材料を素材メーカーから仕入れることになります。完成した自動車は販売会社に卸され、販売店を通じて消費者に届けられるというのが一連の流れです。

自動車業界とはこれらすべての企業を含めた言葉であり、どの企業で働くにしても自動車工学の知識は役に立ちます。

その他の業界

自動車工学のノウハウは自動車業界以外でも活用できます。例えば、素材を加工するための工作機械業界や製品の製造に直接関わる産業機械業界では、自動車工学で学んだ機械工学の知識が役に立つでしょう。

貨物を積んで長距離を移動する輸送用機器業界の部品メーカーや、様々な電気製品を製造する精密機械業界へ進む学生も少なくありません。

こうした幅広い業界で活躍できる素養を身に付けられるのは、関連学問が多く様々な知識を体系的に学ぶことができる自動車工学の大きなメリットです。

自動車工学を学んでおけば自動車業界から他の業界へ進む、その逆も難しくないのでキャリアプランの幅が広がります。

自動車工学を学んだ後に目指せる職業

就職後に自分が受け持つ具体的な業務をイメージするためには、職業についての理解も必要です。自動車工学を学んだ学生の代表的進路としては、次のような職が挙げられます。

エンジニア

自動車エンジニアは一般的に自動車メーカーへ就職し、商品の企画・設計・製造プロセスの最適化などに携わる職業です。

自動車工学で学んだ知識を活かして、開発に必要となる各部署の連携をスムーズにするという役割も担っています。

工学知識の他にも、シミュレーション用コンピューターソフトの扱いやコミュニケーションスキルが求められるポジションです。自動車製造に関わる様々なプロセスに興味があるという人におすすめです。

自動車エンジニアについては以下の記事を参考にしてください。

活躍できる自動車開発エンジニアになるには?大学で学んでおきたい5つの分野を紹介

自動車整備

とにかく機械いじりが好きな人には自動車整備がおすすめです。自動車メーカーが自社で構えている整備工場に勤めることもあれば、整備専門業者に就職するという選択肢もあります。

また、自動車整備士を目指すには所定の国家資格を取得するのが一般的です。無資格で働くことは不可能ではありませんが、雇用先は限られてしまうので注意しましょう。

自動車整備の資格は取り扱う部品や車体の規模によって細分化されているので、自分が興味のある分野を選択してみてください。

参考記事:
自動車整備士になるには?自動車整備士の資格・仕事・やりがいをご紹介

研究・技術者

自動車工学をさらに学問として突き詰めていきたい人は、研究・技術者として各機関で働くケースが多いです。研究・技術者は自動車メーカーの研究部門のほか、一般社団法人の研究施設でも採用されています。

自動車業界は二酸化炭素の排出量が課題として指摘されており、SDGs(持続可能な開発目標)と密接な関わりがあります。社会問題に興味があり、誰かの役に立ちたいと考える人に適している職業でしょう。

自動車の商品企画・開発

自動車メーカーでは、自社商品の企画・開発を専門に行う部署も存在します。

商品企画・開発には自動車工学の基礎的な工学知識の他にも、市場の動向を察知して求められている機能やデザインをアイデアとして企画に落とし込むスキルが必要です。

その上で、材料費・人件費・製造コストといった予算を考慮する事も求められます。

マーケティングや販売戦略といった経営的な観点を養うこともできる職業なので、将来的に経営層へのキャリアアップや独立を考えている人は商品企画・開発職を目指してみるのも良いでしょう。

機械設計

機械設計は自動車製造に限らず様々な機械産業の分野で活躍しています。

概念設計・基本設計・詳細設計・生産設計と段階的に設計作業を行っていくため、自動車エンジニアが行う設計よりも細かい作業が必要です。

コンピューター上で設計図を書き起こす「CAD」、製造シミュレーションを行う「CAM」、設計データシミュレーションに必要な「CAE」といった専門的なツールを使用します。

参考記事:
「機械設計」ってどのような職業?仕事内容からやりがいまで基本情報をご紹介

メカトロニクス

メカトロニクスは「メカニクス(機械工学)」と「エレクトロニクス(電気工学)」を合わせた和製英語で、革新的システムを生み出すための研究および技術のことを指しています。

比較的新しい概念であるため定義は曖昧ですが、機械工学・電子工学・情報工学の3領域の知識をソフトウェアのシミュレーションを通じて融合させる技術と考えておくと良いでしょう。

自動車業界での導入・活用も積極的に推進されているため、自動車メーカーがメカトロニクスの研究を専門的に行うチームを設けている場合があります。

自動車工学を学ぶメリット

自動車の開発に関わる自動車工学を学ぶことは、社会貢献の観点で大きなやりがいを感じられるでしょう。

特に、日本の少子高齢化は社会問題となっており、高齢者の移動手段として自動車は大きな役割を担っています。自動車工学は交通事故削減のために必要な機能の研究や開発にも活用されているため、人々の安全な暮らしを守ることにも繋がるのです。

また、現在において日本の主要産業に成長した自動車業界ですが、海外へ進出して事業を展開している自動車メーカーも少なくありません。

自動車工学は自身の活躍の場を広げてくれる可能性も秘めています。

自動車工学のこれから

自動車業界は先進技術の導入が盛んな分野であり、今後の産業発展にも自動車工学の知識が必要とされています。

例えば、環境保護の観点から電気自動車の研究・開発は各メーカーがしのぎを削っている事業です。

事故防止・渋滞解消・運転手不足解消など様々なメリットが期待されているAIによる自動運転も、自動車産業の今後を担う重要技術と言えます。

自動車工学はこうした先進技術の開発に必要な知識やノウハウを関係領域からも吸収し、実用性の高い学問としてさらなる成長を遂げていくでしょう。

自動車工学は可能性と将来性の塊

現代において、自動車を所有していない人や免許を取得していない人はいても、生涯で一度も車に乗ったことがないという人は珍しいかもしれません。

自動車とはそれほどまでに人々の生活に密着した乗り物であり、まだまだ進化が止まらない分野です。自動車工学の知識は、自分の将来や可能性を広げてくれる武器となります。

機械や社会貢献に興味がある人は、自動車工学の道も選択肢に入れてみましょう。

 

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