小学校や中学校、高校の教員として活躍するためには、教員免許が必要です。
しかし、今後を考えるうえで、教員免許を取得すべきか迷う場合もあるでしょう。
そこで本記事では、教員免許の種類や大学で取得する方法、取得後のメリットや気になる疑問をまとめて解説します。
大学で教員免許を取得したい人や、教員免許の難易度が気になる人、教員免許取得に必要なことを知りたい人は、ぜひ参考にしてください。
目次
教員免許とは
まずは、教員免許を取得するまえに、教員免許とはどんな資格であるのか、どのような種類があるのかをおさえておきましょう。
教員免許とはどんなもの?教員として働くには
教員免許とは正式名称を「教育職員免許状」といいます。
教員免許を取得するには、「教職課程」を設けている大学や短大で必要な単位を取得し、免許の取得申請をしなければいけません。
なお、教員免許を取得するための単位は大学や短大で取得しますが、教員免許状は申請した都道府県の教育委員会から授与されます。
単位を取得したあとに、必要な書類を添えて都道府県の教育委員会に申請します。
教員免許の取得後、都道府県や市町村、または各種学校でおこなわれる教員採用試験に合格し、採用されると教員として働けます。
教員免許は国家資格?
教員免許は国家資格ではありません。国家資格とは国に認定されて授与される資格のため、資格や免許を発行するのは国の各省庁の大臣です。
たとえば、医師免許や看護師免許は厚生労働大臣が発行する国家資格にあたるため、免許状には「厚生労働大臣○○」と発行した大臣の名前が記載されています。
一方、教員免許を発行するのは、都道府県の教育委員会です。そのため、教員免許状には「○○県教育委員会」と教育委員会の名前が記載されています。
教員免許(教育職員免許状)の種類
教員免許には大きく分けて以下の3種類があります。
- 普通免許状
- 特別免許状
- 臨時免許状
自分が働きたい学校や機関、教えたい科目によって、必要となる教員免許は異なります。教員免許の種類を知って、必要な教員免許取得を目指すのが重要です。
次の項目では、教員免許の種類について詳しく解説します。
普通免許状
「普通免許状」とは、所定の単位を学校で取得したあと、必要書類を添えて都道府県の教育委員会に申請することで、授与される教員免許です。
また、普通免許状は、申請・授与された都道府県限定ではありません。
日本全国で有効な教員免許であり、教員免許というと、一般的に普通免許状を指すことがほとんどです。
普通免許状には、
- 幼稚園・小学校・中学校・高等学校の教員免許状
- 保健室の先生である養護教諭免許状
- 給食のメニュー考案や栄養指導を行う栄養教諭免許状
上記の3つがあります。
専修、一種、二種の違い
普通免許状は、卒業した学校や取得した過程によって専修、一種、二種免許状に分かれています。
- 専修免許状
大学院での博士課程修了程度の単位を取得し、申請すると授与される
- 一種免許状
大学卒業程度の単位を取得し、申請すると授与される
- 二種免許状
短大卒業程度の単位を取得し、申請すると授与される
なお、高等学校の教員免許には二種免許状の区分がないため、高校の教員になるには専修または一種免許が必要です。
教員免許の区分
教員免許の区分は、指導可能な範囲に違いはありません。ただし、以下の理由で一種免許以上を取得しておいた方が有利になります。
- 私立学校の採用に応募できないことがある
- 高等学校の教員にはなれない
- 一種免許への切り替え努力規定が課されている
- 管理職になれない
- 給与面で差が出る
公立学校の場合は区分による採用条件の違いはほぼない一方、私立学校の場合採用概要にて「一種免許または専修免許所持」と規定されている場合があります。
高等学校の教員免許は二種区分がないため、高等学校の教員になりたい場合は一種免許以上の取得が必須となります。
教育職員免許法第9条の5「二種免許状を有する者の一種免許状の取得に係る努力義務」として、「教育職員で、その有する相当の免許状(略)が二種免許状であるものは、相当の一種免許状の授与を受けるように努めなければならない」と規定があります。二種免許でも教員にはなれますが、将来的に一種免許への切り替えをするように努力義務が課されているのです。
二種免許では管理職になれません。また、正確には教員免許の種類ではありませんが「修士」「学士」などの最終学位によって給与面で差が出ます。キャリアや収入面などを含め、教員免許を取得する場合は最初から一種免許取得を目指した方がスムーズです。
※参考情報
- https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/050/siryo/attach/1349977.htm
- https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoin/main13_a2.htm
特別免許状
特別免許状とは、社会人としての経験がある人が「教育職員検定」を受験し、認められると授与される教員免許です。
有効範囲は、授与された教育委員会のある都道府県になります。
同免許は、教員免許未取得でも、優れた知識や技術力を持つ人材を学校の現場に迎えるために設定されました。
たとえば看護師としての経験のある人に、高等学校の「看護」を教えるための特別免許状を発行するケースがあります。
特別免許状を授与されるには、以下のものが必要です。
- 教員に任命または雇用したい人の推薦
- 必要教科に関する専門的な知識経験または技能
- 教員の職務に必要な熱意と判断力
なお、特別免許状は小学校教諭でも科目別に授与されます。幼稚園教諭免許はありません。
臨時免許状
臨時免許状とは、普通免許状取得者を採用できない場合に限り、教育職員検定を経て授与される教員免許です。
たとえば、急に教員の欠員が出てしまい、募集をしても普通免許状のある人の応募がなく、生徒に教えられる教員がいない場合などに、例外的に授与されます。
臨時免許状が授与されると、教諭ではなく助教諭、養護助教諭として勤務します。
学校種・教科別
教員免許は、勤務できる学校や、教えられる教科によっても種類が分かれています。
そのため、自分が勤務したい学校、教えたい教科に必要な教員免許を取得するのが重要です。
教員免許の学校種は以下の通りです。
- 幼稚園:就学前の教育指導や保育
- 小学校:音楽や図画工作を含め全ての教科を指導
- 中学校:教科別の指導
- 高等学校:教科別の指導
- 特別支援学校:障害の療育別の指導(視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者、病弱者)
なお、中学校・高等学校は教科別の指導、特別支援学校は障害の領域別の指導となるため、さらに教科・障害の領域によって教員免許が分かれています。
教員免許に記載のある教科・障害の領域の指導が可能です。
中学と高校の教員を目指す場合
中学校と高等学校は教科別の指導となるため、自分が教えたい教科に対応した教員免許を取得しなければいけません。
たとえば数学の先生になりたいなら数学教員免許、英語の先生になりたいなら外国語(英語)教員免許が必要です。
中学校、高等学校の教科別教員免許の種類は以下の通りです。
- 中学校…国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育、保健、技術、家庭、職業、職業指導、職業実習、外国語、宗教
- 高等学校…国語、地理歴史、公民、数学、理科、音楽、美術、工芸、書道、保健体育、保健、看護、看護実習、家庭、家庭実習、情報、情報実習、農業、農業実習、工業、工業実習、商業、商業実習、水産、水産実習、福祉、福祉実習、商船、商船実習、職業指導、外国語、宗教(ほか一種のみの教科に柔道、剣道、情報技術、建築、インテリア、デザイン、情報処理、計算実務がある)
出典:文科省
教員免許を大学で取得する方法
教員免許を取得する方法は以下の3つです。
- 大学で普通教員免許状を取得する
- 教員資格認定試験を受ける
- 特別免許状を取得する
ここでは、もっとも一般的な取得方法である「大学での普通教員免許状取得」について詳しく解説していきます。
免許取得に適した大学を選ぶ
以下の例のように、取得できる教員免許の種類は、大学の学部や学科によって異なります。
- 文学部日本語学科、言語学部日本語学科など…中学校国語、高等学校国語
- 文学部英文学科、外国語学部英語学科など…中学校英語、高等学校英語
- 社会学部経済学科など…中学校社会、高等学校経済
- 史学部史学学科など…中学校社会、高等学校歴史
- 理工学部理学科など…中学校数学、高等学校数学
- 工学部情報システム科など…中学校数学、高等学校数学、情報、情報実習など
まず自分は何の教員になりたいか、何の教科を教えたいかを明確にしましょう。そのうえで、取得したい教員免許の教科に対応している、学部・学科のある大学を選ぶのが重要です。
教員養成学部と教育学部の違いとは
「教員養成学部」や「教育学部」はいずれも小学校の教員になりたい人の進路として多く選ばれる学部です。両者の違いは何でしょうか。
教員養成学部は、名前のとおり教員を養成するための学部です。教員養成学部で卒業に必要な単位を取得すると、教員免許を自動的に取得できます。
一方、教育学部は教育学を学ぶための学部です。卒業に必要な単位を取得するだけでは教員免許は得られません。ほかの学部と同じく、教員免許取得のための単位を別に取得する必要があります。
ただし、大学によっては教育学部=教員養成学部である場合もあります。いずれの場合も、大学卒業とともに免許が取得できるかどうかを確認しておきましょう。
普通教員免許状取得に必要な科目
普通教員免許の取得には、卒業に必要な単位のほか、教員免許状取得に必要な科目を履修し、単位を取らなければいけません。
教員免許取得に必要な科目は、以下の5つに区分されています。
- 教科や教科の指導法に関する科目
- 教育の基礎的理解に関する科目
- 道徳、総合的な学習の時間などの指導法や生徒指導、教育相談等に関する科目
- 教育実習に関する科目
- 大学が独自に設定する科目
実際に単位を取得するために履修する科目名は、大学によって異なります。また、取得する単位数も区分や取得する教員免許の種類によって変わってきます。
教員免許状取得にかかる費用
大学に通って教員免許を取得する場合には、4年制大学に通う方法と、通信制大学に通う方法があり、それぞれで費用が異なります。
4年制大学に通う場合は、学位(大卒資格)と教員免許状取得を目指すことになります。4年制大学に通った場合の平均学費は、私立文系で約350万円、私立理系で約490万円です。
通信制大学に通う場合は、すでに大卒で教員免許に必要な単位だけ習得するか、大卒と教員免許取得両方目指すか、で費用が異なってきます。
教員免許取得だけなら30~70万円、大卒と教員免許取得両方なら65~160万円ほどです。
通信制大学に通うメリットやデメリット
社会人として働きながら大学に通いたいときや、すでに大学は卒業していて教員免許だけ取得したいときには、通信制大学も選択肢となります。通信制大学は、費用や期間をおさえられるのがメリットです。
科目履修(科目を勉強して必要な単位を取ること)の方法はレポート提出+履修試験、スクーリング(大学に通って講義を受ける)があり、それぞれで提出期限や開講日が決まっています。
ただし、通えば単位が取得できる4年制大学と異なり、自主的にレポート提出を行い、スクーリングや試験の申込をします。
勉強の時間も自分で確保して進めなければいけないので「絶対に卒業する」という意思がないと、途中であきらめて退学してしまう人も多いです。
教員免許の気になる疑問
教員免許に興味はあるものの、気になることがある人もいるでしょう。教員免許に関する疑問とその解答をまとめました。
年齢制限はある?
教員免許取得に年齢制限はありません。大学卒業および必要な単位を取得して教育委員会に申請すれば、いくつになっても取得できます。
ただし、教員として働くには、20~30代の間に免許を取得しておくのが必須となります。なぜなら、教員免許取得には教育実習を含めた単位取得が必要で、かなりの時間を要するからです。
さらに、都道府県や市町村が行う教員採用試験は、応募条件に年齢制限があります。
たとえば、令和2年度の東京都公立学校教員採用候補者選考(3年度採用)の場合、一般選考では、39歳までを対象者としています。
難易度は高い?
教員免許取得自体は、それほど難易度は高くありません。大学卒業に必要な単位と同じように、きちんと勉強や課題提出、試験をこなせば単位は取得できます。計画的に勉強すれば、卒業と同時に教員免許取得は十分可能です。
一方、教員になるためにはそれなりに準備が必要です。教員は人手不足と言われていますが、教員採用試験の倍率自体は毎年3~5倍と、人気の職種になっています。採用試験に落ちて教職浪人をする人もいます。
「教員になりたい」という強い意思を持つことと、採用試験への準備をしっかり行うことが、教員になるための近道です。
教員免許を取得する4つのメリット
教員免許を取得すると、いろいろなメリットがあります。教員免許取得をこれから目指したい人の後押しとなる、教員免許取得の4つのメリットを解説します。
学校の教師になれる
教員免許があれば、学校の教師として働けます。逆に、教員免許がないと学校教師となるための教員採用試験を受けられませんし、教壇にも立てません。
教員採用試験では、当然不合格となることもありますが、1年間待てば、教員採用試験への再チャレンジも可能です。また、教員採用試験は都道府県の試験ですが、私立の学校はそれぞれの学校で採用試験を実施しています。不合格になっても教師になるチャンスはたくさんあります。
教育実習で教師を体験できる
教員免許を取得するうえで、必ず教育実習を行うため、学生でありながら、一時的に教師の体験ができます。
教育実習は、決められた3~4週間の期間、母校や指定された学校へ実習に赴きます。人生で、なかなか体験できない貴重なものになるでしょう。
実際に教師の擬似体験をすることで、自分に教師としての適性があるかどうかも確かめられます。
学校教育の理解が深まる
教員免許を取得する過程で学ぶ科目のなかには、日本の教育に関するものもたくさんあります。学校教育に対する理解が深まれば、将来自分が子育てを行う際にも知識として活用できます。
たとえば、教科に関する専門的な知識や、教育や学校の役割を知っておくと、子どもが就学する際に、適切なサポートができるでしょう。
将来の選択肢が広がる
教員免許を取得しても、必ず学校の教師を目指す必要はありません。取得した教員免許を生かして、学校や教育関係の仕事に就く選択肢もあります。
たとえば、塾や予備校講師、家庭教師などの仕事に就く場合、採用時点で有利になることも多いです。
また、学童保育所や児童養護施設の職員になる場合、児童指導員任用資格が必要になりますが、小・中・高いずれかの教員免許があれば、任用資格として認められます。
教員免許を取得する2つのデメリット
教員免許を取得するうえで、当然メリットだけでなくデメリットも生じます。ここでは2つのデメリットを解説します。
一般の企業に就職する際に役立ちにくい
教員免許は、もともと教師になるために取得する免許です。教員のほか、学校や教育などに関する企業や仕事には有利になる一方、一般企業への就職には役に立ちにくいのがデメリットです。
企業によっては、面接時に「なぜ教員免許があるのに、入社したいのですか」「もう先生にはならないのですか」と問われる可能性もあります。
その場合、「教員免許は取得したが、大学で学んだことを生かして働きたいと思ったから」など明確に答えられるようにしなければいけません。
学生生活が忙しくなる
教員免許取得には、卒業に必要な単位のほか、免許取得のための単位も取らなければいけません。普通に卒業するよりも、多くの科目を履修しなければいけないので、学生生活が忙しくなります。
また、教育実習は春(5~6月)または秋(9~11月)に行います。教育実習を受けるためには、計画的に単位を修得しておかないと、4年生の忙しい時期に、教育実習がぶつかってしまう可能性もあります。
おわりに
教員免許は働く学校、教える教科によって種類が分かれています。また、大学によって、取得できる教員免許の種類が異なります。
そのため、教員を目指す場合には、「どの学校で、何の教師になりたいか」をじっくり考え、必要な教員免許は何かを明確にしておきましょう。そのうえで、必要な教員免許を取得できる大学を選ぶのが重要です。
教員とは、人の成長に関われるかけがえのない仕事です。在学中は大変なこともありますが、教員免許の取得をぜひ考えてみてはいかがでしょうか。