理科の先生になるには?教員免許や採用試験の概要から、よくある疑問まで回答して解説いたします

工学教育

火や薬品を使った実験、生物や地球環境に関する知識、物質が動く構造や仕組みなど、わくわくする内容を勉強できる「理科」。「理科が好き」という理由で、理系の進路を選ぶ人も多いでしょう。

生物や化学、物理の知的探求心が刺激される分野を担当するのが理科の先生です。理科が好きなら「理科の先生になりたい」と思う人もたくさんいます。

ところが、「生物は得意だけど化学や物理が苦手」「理科は好きだけど数学が苦手」などの理由で、理科の先生になるのは難しいと考えていませんか。

この記事では、理科の先生になるために必要なことや先生の仕事について解説します。これから理科の先生を目指したい人、進路選びに迷っている人は、ぜひ参考にしてください。

理科の先生になるために必要なのは、教員免許と採用試験の突破

理科の先生になるために、必ず取得しなければならないのが「教員免許」です。教員免許を取得し、「採用試験」を突破することで理科の先生になれます。

理科の先生になるために必要となる教員免許と採用試験について順に解説していきます。

理科の先生の教員免許の種類と取得方法

理科の先生は、中学校の理科教師になるか、高校の理科教師になるかで必要となる教員免許が異なります。それぞれに必要な教員免許の種類と、取得方法を解説します。

普通一種免許状の取得を目指すのが一般的

理科の先生になるために必要な教員免許には、「普通免許状、特別免許状、臨時免許状」の3種類があります。一般的なルートとしては、教職課程のある学校で必要な単位を履修、卒業して取得する「普通免許状」の取得を目指します。

さらに、普通免許状は学歴により「一種免許状(大学)、二種免許状(短大)、専修免許状(大学院)」の3種類に分かれます。この中では、大学で教職課程を履修、卒業して取得する「一種免許状」の取得が一般的です。

文部科学省の参考資料「教員免許授与件数(令和元年度課程認定大学等卒業者)」でも、すべての教員免許取得件数203,797件のうち、「一種免許状」の取得件数は138,492件と全体の約67%におよびます。文部科学省「教員免許授与件数」

理科の先生になるために教員免許の取得を目指すなら、大学を卒業して「普通一種免許状」を取得するのが一般的なルートということになります。

中学校の理科の先生になるために必要な教員免許

中学校の理科の先生になる場合、必要となるのが「中学校教諭免許状(理科)」です。

学歴により、以下の3つの免許に分かれています。

  • 中学校教諭一種免許状(理科):大学卒業相当
  • 中学校教諭二種免許状(理科):短期大学卒業相当
  • 中学校教諭専修免許状(理科):大学院修了相当

所定の単位を取得して、各免許に対応した学校を卒業すると、各教員免許が取得できます。中学校の教員免許の詳しい取得方法については、以下の記事を参考にしてください。

高校の理科の先生になるために必要な教員免許

高校の理科の先生になる場合、以下のいずれかの教員免許が必要です。

  • 高等学校教諭一種免許状(理科):大学卒業相当
  • 高等学校教諭専修免許状(理科):大学院修了相当

高校になると、理科という科目が分野によって「生物、化学、物理、地学」に分けられます。

理科の教員免許は科目によって種類の区分がなく、高校の理科の教員免許を所得すればすべての科目を担当できるのが特徴です。

科目によって教員免許の種類が区別される、「社会」と比較してみました。

中学の教員免許高校の教員免許
理科「理科」1種類のみ。
理科が教えられる。
「理科」1種類のみ。
すべての科目(生物、化学、物理、地学)が教えられる。
社会「社会」1種類のみ。
社会が教えられる。
「地理歴史」「公民」の2種類がある。
免許に対応した科目のみ教えられる。
・地理歴史…地理、日本史、世界史が教えられる
・公民…公民、経済が教えられる

高校の先生の教員免許は、中学校と異なり一種と専修のみです。つまり、大学卒業または大学院修了と同等の学歴が必須となります。

高校の教員免許の詳しい取得方法については、以下の記事を参考にしてください。

中学校と高校の教員免許一括取得も可能

中学校・高校の理科の教員免許の同時取得も可能です。教職課程を設けているほとんどの大学では、中学校と高校の教員免許を同時に取得できます。

中学校と高校の教員免許を同時に取得するメリット・デメリットを以下にまとめました。

メリット

  • 中高一貫校や私立で採用されやすくなる
  • 受験できる自治体の幅が広がる

公立の中高一貫校や付属のある私立の学校での就職に有利になります。中学校と高校両方の教員免許を持っている人材は、中学校と高校両方に配置できるからです。

中学校や高校間での人事異動をしたり、一部の授業を中学校と高校両方で担当したりする機会もあります。

公立学校の理科の先生になるには、各自治体の教員採用試験(詳しくは後述)を受験し合格する必要があります。東京都など、中学校・高校で共通する教科の採用試験を一括実施する都道府県もあります。

一括実施する自治体の理科の先生の採用試験を受ける場合、中学校・高校両方の教員免許が必要です。両方を取得しておくことで、教員採用試験を受験できる自治体の選択肢が広がるでしょう。

デメリット

  • 取得単位数が増える
  • 実習がやや大変になる

中学校と高校両方の教員免許を取得する場合、教職課程で履修が必要な単位数が増えます。大学生活がやや大変になり、計画的な単位の取得が求められるでしょう。

高校の教員免許を取得する場合に必要なのは所定の単位と2週間程度の教育実習であるのに対して、中学校の教員免許の取得には4週間程度の教育実習に加えて7日間程度の介護実習等が必要です。実習面での負担が大きくなることも覚えておきましょう。

理科の先生になるための教員免許取得については、こちらの記事もぜひ参考にしてください。

理科の先生になるための教員採用試験について

理科の教員免許を取得し、教員採用試験に合格することで理科の先生になれます。教員採用試験の内容やスケジュールについて解説します。

公立学校、私立学校で受験する試験が異なる

公立中学校または高校の理科の先生は「地方公務員」です。各自治体の職員として勤務することになります。そのため、公立学校の理科の先生になるには、各自治体で実施される教員採用試験(正式名称:公立学校教員採用選考)を受験し、合格しなければいけません。

私立中学校または高校の数学の先生の立場は「法人職員」です。学校法人である私立の学校に直接雇用され、学校の職員として働きます。各私立学校の教員募集に応募し、採用されればその学校の理科の先生になります。

なお、スケジュールによっては自治体の教員採用試験と私立学校の教員採用試験の併願も可能です。

教員採用試験のスケジュール

教員採用試験は、受験を希望する自治体や私立学校によってスケジュールが異なります。参考として、東京都公立学校教員採用候補者選考(令和4年度採用)のスケジュールをまとめました。

  • 募集要項の発表…3月下旬
  • 受験の募集開始…4月上旬~5月上旬
  • 受験票の交付…6月中旬
  • 第一次選考…7月上旬
  • 第一次選考合格発表…8月上旬
  • 第二次選考…8月上旬~9月上旬
  • 合否発表(最終)…10月
  • 各区市町村教育委員会・都立学校等への紹介・面談…2月以降順次
  • 勤務先で勤務開始…4月

また来年度4月からの採用募集以外にも、欠員補充などによる臨時採用や新設校の教員を募集することもあります。臨時採用は各自治体または自治体の教育委員会の公式サイトなどで公表されます。

チャンスを広げるために、いろいろな教員採用試験の情報を入手しておきましょう。

理科の教員免許がないと受けられない「小学校教員採用試験」がある

東京都では、独自の採用枠として「小学校全科(理科コース)」の採用試験を実施しています。小学校全科(理科コース)は、小学校の理科教育の充実を目的として設置されました。

小学校全科(理科コース)に合格すると、小学校の全科を受け持つ担任教師や、理科の専任教師として働けるほか、将来的には理科教育におけるリーダーとして専門分野や研究を行う立場を目指せます。

小学校全科(理科コース)の採用試験を受験するには、小学校の教員免許に加えて中高いずれかの理科の教員免許が必要となります。小学校の教員免許も取得する必要はありますが、理科の教員採用試験のひとつの選択肢として覚えておきましょう。

小学校全科(理科コース)を設置した背景には、小学校の教員不足への対策もあります。教員不足を補うために導入されているのが、理科をはじめ体育や音楽、家庭科や英語など一部の科目で中学校・高校の教員免許のみで小学校の授業が担当できる「専任教員制度」です。

専任教員としての勤務経験があれば、小学校教員免許の取得要件を緩和する措置を導入するか、東京都で協議されています。

専門的な知識を教える理科という科目の特性から、今後東京都以外でも理科の教員免許を活かして受験できる教員採用試験枠が増えたり、小学校教員免許の取得が簡単になったりすることが期待できるかもしれません。

理科の教員採用試験の内容

理科の教員採用試験の内容の参考として、東京都公立学校教員採用候補者選考(令和4年度採用)の理科の試験内容と問題を以下にまとめました。

教員採用試験の内容は、受験する自治体や私立学校によって異なるため、受験する自治体や学校の要項を確認しておきましょう。

第一次選考

  • 教職教養問題…日本国憲法、就学に関する法令、公立学校の学期や休業日等に関する法令、公立学校の児童・生徒に対する懲戒や性行不良による出席停止について、公立学校の教職員の職務又は配置に関する記述および服務規定について、教員免許についてなど
  • 専門教養…物理、化学、生物の理科の専門知識を問う問題
  • 論文…テーマ(学校生活、生徒指導などに関するもの)を選択し、決められた問題に沿って論述をする

第二次選考

  • 個別面接
  • 集団面接

理科の先生に関するよくある質問と回答

理科の先生に関するよくある質問と回答をまとめました。

理科の先生になるのは難しい?難易度はどのくらい?

理科の先生になるのが難しいかのひとつの指標となるのが、教員採用試験の倍率です。残念ながら理科のみの教員採用試験の倍率は公表されていないため、教員採用試験受験者全体での倍率を参考にしています。

文部科学省発表の「令和3年度教員採用選考試験実施状況」によれば、令和3年度の全国の教員採用試験の倍率は中学校が4.4倍、高等学校が6.6倍でした。過去5年の中学校・高等学校の教員採用試験の倍率をまとめると以下の通りです。

平成29年度平成30年度令和元年度令和2年度令和3年度
中学校7.46.85.75.14.4
高等学校7.17.76.96.16.6

参考:文部科学省「令和3年度教員採用選考試験実施状況

令和3年度の倍率は中学校で減少、高等学校では久しぶりの増加となりました。教員採用試験の倍率は少子高齢化、一定の世代の大量退職などが背景にあり、年々減少傾向です。

このことから、近年は倍率面では教員にはなりやすい状況が続いているといえます。

女性の理科の先生は少ない?

工学部、理学部、生物学部などのいわゆる理系の学科は、男子学生の割合が多く女子学生の割合が少ないというイメージがあります。そのため、理科や数学などの理系の先生も少ないのでは?と思う人も多いでしょう。

内閣省発表の「平成30年度男女共同参画社会の形成の状況」の「担任教科別、教員免許状別教員構成(中学校)」によれば、理科の女性教員の比率は「社会」に次いで二番目に低く、次に「数学」「保健体育」が続きます。

一方で、「女子生徒等の理工系進路選択支援に向けた生徒等の意識に関する調査研究」によれば、生徒自身が自分を「理系タイプである」もしくは「どちらかといえば理系タイプである」と位置付けている割合が、中学校で理数科目(数学、理科)1科目でも女性教員から教わっている女子は33.8%、2科目ともに男性教員から教わっている女子は22.5%と前者が11.3ポイント高くなっています。

この調査では、理数教科を担当する教員の性別が、生徒の好きな科目の傾向や進路、ロールモデルを決める指標にもなっていると言える結果が出ました。

生徒にとって身近な存在である「先生」が自分と同じ女性であることから、目標とされることもあるでしょう。「リケジョ」という言葉が生まれた通り、少数派とはいえ女性が理系の道を選ぶことは珍しくありません。

女性の理科の先生の存在が、生徒の目に「かっこいい、あこがれる」と映り、将来の道を決めるきっかけとなる可能性も高いです。

理科の先生の仕事内容とは?

理科の先生の仕事内容は、大きく分けて以下の3つがあります。

  • クラス担任業務
  • 教科担当業務
  • 校務に関する業務

クラス担任または副担任となった場合、クラスを運営する業務を行います。連絡事項の伝達や話し合いを行うホームルームの運営、生徒や保護者との面談を含めた進路相談・進路指導、修学旅行・学園祭・体育祭などの学校行事への準備などが該当します。

教科担当業務では、毎回の理科の授業の指導内容の考案、副教材やプリントの準備、定期テストの問題作成と採点、成績の評価などを行います。

校務に関する業務では、部活の顧問としての指導や引率、学校施設の管理、学校の管理や行事に関する事務作業など、ほかの教員と連携を取って行います。

理科の先生になるためにやっておくことや、学部の決め方についてはこちらの記事もぜひ参考にしてください。

理科の先生は将来性ややりがいも多い魅力的な職業

理科の先生になるために必要な教員免許や採用試験、理科の先生になるためのよくある質問と回答を紹介しました。

理科は生物や環境、地球、化学など身近にあるものの謎や仕組みを解明できる、知的探求心を刺激する魅力的な教科です。専門的な知識やスキルが必要となりますが、生徒へ教えることに大きなやりがいも感じるでしょう。

東京都の小学校全科(理科コース)の導入をはじめ、理科の教員免許には高い将来性もあります。ぜひ理科の先生になるために、教員免許の取得を目指してみましょう。

 

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