大学卒業後に、より専門的なカリキュラムの学習や研究をする場合、大学院の修士課程の道があります。理系学部は文系学部よりも大学院進学率が高い傾向にありますが、なかでも工学部の修士課程への進学率が高いのをご存知でしょうか。
本記事ではニーズや価値の高まりが期待できる、工学部の修士課程への進学方法、取得するメリット、就職先などを解説します。工学部の修士課程への進学を検討している人は、ぜひ参考にしてください。
目次
工学の修士課程とは
大学の卒業後の進路には、就職または大学院への進学があります。大学院が併設されている大学ならそのまま進学する方法もありますが、他の大学や学部の大学院など外部へ進学するのも選択肢の一つです。
様々な分野が学べる工学部の修士課程
大学院には「修士課程」と「博士課程」が併設されています。大学院によっては修士課程を博士前期、博士課程を博士後期と呼ぶ場合もあります。工学部の修士課程を併設している大学院も多く、専門的な分野の学問や研究を進めることになります。
工学部の修士課程は「工学部〇〇専攻」や「工学研究科工学部」などさまざまな名称があります。また、4年制大学の工学部と同じく、さまざまな分野の専攻やコースが課程として設けられ、将来的に就職を目指す分野や、研究を進めたい分野に応じた進路が選べます。
工学博士や学士・修士・博士の違いは以下の記事でも解説しています。
・工学博士とは?工学分野の博士号を取得するメリット・デメリットや就職事情を徹底解説
工学部の修士課程への進学率が高い理由
第81回中央教育審議会大学分科会大学院部会(平成29年)の資料「大学院の現状を示す基本的なデータ」によると、大学院の設置率が国立100%に対して公立87%、私立77%です。
私立大学の大学院設置は横ばい傾向が続き、理系や文系のさまざまな分野で修士課程の選択肢が広がっています。
また、工学の修士課程在籍者数は、全体の41%ともっとも高い割合を占めていることが分かります。
参考:第81回中央教育審議会大学分科会大学院部会(平成29年)「大学院の現状を示す基本的なデータ」
工学修士と修士(工学)の違い
平成3年の「学位規制の改正」により、学位の表記方法が変更になりました。当時使われていた各学位の種類が廃止され、すべての表記が「学士」「修士」「博士」に統一された経緯があります。
変更前:英文学学士、工学修士、医学博士など「〇〇(修了した学部)+位」の形
変更後:修了した学部の名前は付けず、学士、修士、博士に統一
制度変更以降、かつての「工学修士」は「修士(工学)」と表記されるようになりました。現在は名刺や書籍などの肩書には、一般的に「修士(工学)」と表記されています。
工学部の修士課程へ進学するメリット
理系学部の大学院進学率は4割と高めです。国立大学なら6〜8割、さらに上位大学なら9割の学生が卒業後、大学院に進学しています。
参考:第81回中央教育審議会大学分科会大学院部会(平成29年)「大学院の現状を示す基本的なデータ」
参考:『大学の真の実力』データファイル|旺文社教育情報センター
修士課程へ進学する一番の理由が、就職活動に有利であることです。理系枠があることに加えて、理系の修士枠を設けている大手企業も多くなっています。
近年専門的かつ高度なIT技術を求める企業が増えたことで、特に工学部の修士課程へ進学する人も増加傾向にあります。就職後も初任給が高いなど、待遇面でメリットが受けられる場合も多いです。
他にも大学院へ進学することで得られるメリットはたくさんあります。以下でまとめていますので、興味のある人は読んでみてください。
・理工系の大学院ってどんなところ?理系の大学院に進学するメリットとデメリットとは
工学部の修士課程へ進学する方法と入試について
工学部の修士課程へ進学する方法は、主に以下の4パターンあります。
- 内部進学(内部選考)
- 一般選考
- 推薦入学
- 社会人選抜(社会人選考)
それぞれの進学方法ごとの入試形式について解説します。なお入試形式や希望する大学院によって求められる学歴などの条件が異なります。願書提出前に確認しておきましょう。
内部進学(内部選考)
内部進学は、大学院が併設されている大学の工学部を卒業後、同じ大学の大学院の工学部へ進学する方法で、私立大学で設けられていることが多いです。
入試では学科試験が課されることは少なく、書類審査や口頭での設問を含めた面接、論文による審査が採用されるケースがほとんどです。
内部進学の場合、キャンパスや大学へ継続して通えるというメリットがあります。大学院によっては、大学で学んだ専攻以外の選択を認められることもあります。久留米工業大学でも、大学で専攻した学部・学科以外の専攻を大学院で選択し学ぶことができます。
一般選考
外部の大学から進学を希望する学生を受け入れている大学院が設ける入試方法です。新卒のほか既卒(社会人)、早期卒業生の受け入れを行っている大学院もあります。主な選考方法は以下の通りで、大学院によって異なります。
- 学科試験(工学部の場合は数学、英語、選択科目が多い)
- 口頭での設問を含めた面接(出願理由、大学で専攻した分野、卒業論文についてなど)
国立または上位の私立の大学院ではTOEIC、TOEFL(iBT, PBT)またはIELTSのスコアが必須です。英語の学科試験で代替できる場合もあります。
推薦入学
外部の大学の卒業見込み生、または社会人を受け入れるために採用されることが多い入試方法です。所定の書式での推薦状の提出が求められます。推薦入学で選抜が決まった場合、ほとんどの大学院で入学の辞退はできません。
小論文と面接によって合格の可否が決められることが多いですが、学部によっては英語の試験またはTOEIC、TOEFL(iBT, PBT)、またはIELTSのスコアを求められることがあります。
社会人選抜(社会人選考)
社会人の受け入れる大学院は年々拡大しています。社会人選抜は推薦や特別枠、AO入試など書類や小論文、面接などで選考されることが多いです。ただし採用人数は内部進学や一般選考よりも少なくなっています。
大学院によっては一般選考との併願が認められていませんが、大学院入学において社会人の特別枠を設ける大学も多いです。社会人が大学院で学び直しをするチャンスも広がっていると言えるでしょう。
工学部の修士課程修了後の進路
工学部の修士課程修了後の進路は「就職する」または「博士課程に進む」のいずれかとなります。それぞれの進路について解説します。
就職する
一つ目は修士課程修了後に就職するパターンです。理系枠や大学院卒枠を利用しての就職活動も進められます。大学院の修士課程を修了すると、工学に関する専門的な知識やスキル、研究成果を習得しているとみなされます。開発や研究部門への就職を希望するなら修士号以上は必須でしょう。
4年制大学の工学部卒(学士)の場合は、上記の業種でも開発や研究職に行けるとは限りません。一方工学部の大学院卒(修士以上)の場合は、開発や研究職を目指せる可能性が高いです。企業によっては特許取得や学会発表などの機会を設けているところもあります。
主な工学部卒の就職先には以下の業種があります。
業種 | 工学修士号以上で活躍できる分野 |
---|---|
建設 | 環境関連、新型機械、施工の自動化・ロボット化などの開発 |
食品・医薬品 | 特定栄養素の研究や工学技術の開発など |
化学 | 各製品開発、試作、サンプリング、検査など |
電機・電子・精密機器・OA機器 | 要素技術、機器システム、生産技術、ソフトウェア、AI・IoTに関する研究開発など |
自動車・輸送機器 | 車両、ソフトウェア、制御システム、DX、セキュリティ、カーボンニュートラルの各技術の研究開発など |
電気・ガス・エネルギー | エネルギーソリューションやエンジニアリング、流通システムの研究開発など |
ゴム・セラミック・製紙 | 製品設計、製造技術、生産技術、品質管理などの研究開発 |
鉄鋼、非鉄金属 | 製品、構造設計・加工・接合、製造プロセスなどの研究開発 |
IT・通信 | 通信網、ビジネスクラウド、ネットワークセキュリティ、DXソリューションの各システムの開発、研究など |
博士課程へ進む
二つ目の選択肢として、修士課程を2年で修了後、博士課程へ進み博士(工学)の学位を取得するという進路もあります。
久留米工業大学で工学部大学院進学を目指すメリットとは
ここからは、久留米工業大学の大学院/工学研究部の修士課程において進学を目指すメリットを解説していきます。選択肢の一つとして参考にしてください。
異なる専攻も選択できる
私立大学では大学院の内部進学制度を設けているケースも多いですが、大学で専攻した学科以外のコースや専攻は履修できない場合があります。久留米工業大学の場合、大学の専攻と異なるものを選択することも可能です。
もちろん「大学で学んだ知識や研究を深めたい」という理由で同じ専攻を選んでも問題ありません。
自分が将来進みたい道や就職先、研究したい内容によって大学院での専攻を選べるのも、久留米工業大学の特徴です。久留米工業大学の大学院の専攻をまとめました。
- エネルギーシステム工学専攻…主に「機械システム工学科」と「建築・設備工学科」の学生が進学
- モビリティシステム工学専攻…主に「交通機械工学科」の学生が進学
- 電子情報システム工学専攻…主に「情報ネットワーク工学科」の学生が進学
学んだ学部によってある程度決められる専攻の傾向はあるものの、大学での学部を問わず全ての専攻に門戸が開かれています。
学費のサポートを受けられる制度がある
大学院はより専門的な知識を得られ、追求したい分野の研究ができる教育機関であるため、継続して学費が発生します。勉強や研究をしたいと考えていても、経済的な負担から大学院進学を諦めてしまう人も多いでしょう。
久留米工業大学の大学院では、経済的な負担を減らしつつ、学生の勉学や社会貢献への意欲をサポートするための以下の制度が整っています。
特別奨学生
久留米工業大学工学部を卒業し、以下の条件を満たした学生が授業料の7割および3割の免除を受けられる制度です。
- 大学院推薦入学試験に合格している
- 学科長が推薦している
- 3年次修了時点の当該学科での成績(GPA評価)上位5%以内、または上位15%以内
3年次に久留米工業大学へ編入した場合も、所定の条件を満たすことで、授業料免除措置が受けられる大学院特別奨学生として認められます。
TA制度
TA制度とは、学部講義のサポートに率先して参加した大学院学生へ一定の手当を支給する制度です。大学の教育に関わりながら優れた人材を育てる目的があります。
大手企業や人気職種への就職実績が豊富
近年の社会情勢を受け、2022年現在大学生や大学院生の就職率も全体的にやや低下気味となっています。一方、工学部で学ぶことで今後も安定して高いニーズが期待できる、ITやものづくりに関する専門的な知識を身に付けられます。
習得した知識を活かして、近年でも多くの有名企業や人気の職種への就職を実現した先輩が多くいます。令和3年度の久留米工業大学大学院を修了した学生の主な進路をまとめました。
専攻 | 就職先 |
---|---|
エネルギーシステム工学専攻 | 阪神内燃機工業株式会社 日精株式会社 日造船株式会社 三菱重工業株式会社 株式会社瑞光 など |
電子情報システム工学専攻 | 株式会社DIP スマートインプリメント株式会社 ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング株式会社 など |
モビリティシステム工学専攻 | ダイハツ九州株式会社 株式会社ホンダテクノ 高校教員 など |
工学部の修士課程での学びは将来の選択肢が広がる
将来開発や研究職を目指したい場合、大学院へ進学し工学部の修士課程を修了することで、より自分の希望する職種への就職が叶う可能性が高くなります。
まだ現時点で将来大学院に行くかどうか決めていない場合でも、大学在学中に学びながら卒業後就職か進学かをじっくり検討してみましょう。