技術の進歩にともない、建物の設備は複雑化しています。機能性と安全性を両立させた建物づくりのために欠かせない資格が、建築設備士です。将来的に建築関連の仕事に就きたいと思っている人は、建築設備の資格取得もぜひ検討してみましょう。
この記事では、建築設備士の仕事内容に加えて、資格の取得方法や難易度、資格を取得するメリットについて解説します。建築設備士を目指すための進路の選び方も解説していますので、今後の進路決定にもぜひ役立ててください。
目次
建築設備士の資格概要や仕事内容について
建築設備士の資格や仕事内容について解説します。
建築設備士とは
建築設備士とは、建築設備(空調、換気、給排水衛生、電気等)全般に関する知識や技能を有した資格者のことです。建築士に対して、高度化・複雑化した建築設備の設計・工事監理に関する適切なアドバイスが行えます。なお、建築設備士は国土交通大臣によって認められる国家資格です。
技術の進歩によって建築設備の高度化や複雑化が進んでいいます。建築物は機能性を高めても、安全性は以前と同様に確保されなければいけません。そのため建築設備にかかわる設計や工事監理の高度化や複合化へ的確に対応するための資格者として、建築設備士が創設されました。
昭和58年、建築士法の改正時に創設され(建築士法第20条第5項)、昭和61年から建設大臣の指定を受け、平成17年からは国土交通大臣の登録(建築士法施行規則第17条の18第一号)を受けています。
建築設備士の仕事内容
建築設備士の主な仕事内容は、建築士に対して適切なアドバイスを行うことです。独占資格ではないため、建築設備士のみができる業務などはありません。
建築士が建築設備士のアドバイスを受けて建築設備に係る設計や工事監理を行った場合、建築確認申請書等などにその旨を明記することが義務付けられています。さらに、建築士事務所の開設者が建築主から設計等の委託を受けたときの、建築主に交付すべき書面に記載する事項のひとつに、業務に従事する建築設備士の氏名が規定されています。
建築設備士の就職先や年収
建築会社やハウスメーカーなどが、建築設備士の主な就職先です。大手やメーカーの場合は年収が高くなり、二次下請け以降の場合は年収が低くなる傾向にあります。平均年収は720万円ほどです。
建築設備士だけでなく、建築士や施工監理技士などの関連資格も一緒に取得することで、業務内容を増やして年収アップも狙えるでしょう。
建築設備士の資格は意味がない?
建築設備士は、資格によって業務の内容が限定されるわけではありません。また、建築士は建築設備士からのアドバイスを受けなくても設計や工事管理は可能です。そのため「建築設備士資格は取得しても意味がないのでは?」と考える人も多いかもしれません。
しかしながら、実際には建築の安全性への関心の高まりや安全性の確保のために、建築設備士から助言をもらうことを設計や工事管理の条件としている依頼主も増えてきています。
よって建築設備士自体は、建物の安全性を確保する上で今後もニーズが高まることが予想されるでしょう。さらに建築設備士資格を取得することで、ほかの建築関連の資格取得や業務に役立つなどのメリットもあります。将来建築関連での就職を希望するなら、押さえておきたい資格です。
建築設備士資格を取得すると得られるメリット
建築設備士資格を取得するメリットを解説します。
今後も高いニーズが期待できる
前述通り、建物の安全保持や安全性への関心から建築設備士は必要とされています。さらに建築技術の向上や制度改革により、建築設備士のニーズが高まることが期待できるでしょう。
近年の建築設備士の必要性が高まりそうな出来事として、2025年度からの住宅の省エネ基準適合義務化があります。
住宅の省エネ基準適合化は、2020年からの適合義務化の方向に進みつつも一度は白紙になりました。その後パリ協定の制定や脱炭素化社会へ向けたロードマップの策定などを踏まえて、一般住宅も省エネ基準適合義務化の対象となったのです。今後は一般住宅全般で断熱性能や高気密設計の住宅が求められるようになるため、建築設備士のニーズの高まりが期待されています。
住宅の省エネ基準適合化を含め、脱炭素化社会に向けた取り組みは、建築関連でも求められています。建築設備士は技術の進歩だけでなく、法改正や市場の動向などによって高いニーズが得られる資格職でもあるため、今後も安定した活躍が期待できるでしょう。
一級建築士への道が開ける
将来的に建築士の資格取得を希望する場合は、建築設備士資格を取得することで一級建築士資格の取得がしやすくなるメリットがあります。
まず一級建築士や二級建築士になるには、学歴の条件として大学などで指定の科目を履修する必要があります。一方、建築設備士資格は学歴上での受験条件は建築、機械または電気に関する課程を修めて卒業することです。
さらに建築設備士資格を取得したうえで4年以上の実務経験を積むと、一級建築士の受験資格が得られます。建築ではなく機械や電気などの学部や学科卒でも、あらためて建築関連の科目を履修する必要なく、一級建築士が受験できるのがメリットです。建築設備士資格と一緒に、建築士などの資格を取得して活躍する人も多くなっています。
一級建築士・二級建築士に興味がある方はこちらの記事も参考になります
設備設計一級建築士資格の取得に有利になる
一定規模(階数3以上かつ床面積の合計5,000平方メートル超)の建築物の設備設計、または設備関係規定への適合性の確認ができる資格者が、設備設計一級建築士資格です。
設備設計一級建築士資格を取得するには、一級建築士として5年以上の実務経験と所定の講習の修了が必要です。建築設備士資格があれば、設備設計部分の講義と修了考査が免除となるため、設備設計一級建築士資格取得に有利となります。
防火対象物点検資格者の受講資格が得られる
防火対象物点検資格者とは、消防法令及び火災予防等に関する専門的な知識を有する資格者です。一定の防火対象物については、防火対象物点検資格者が総合的に点検し、結果を管理権原者が消防機関に報告する義務があります。
防火対象物点検資格者の資格を取得するには、防火対象物点検資格者講習の受講と終了が必要です。建築設備士として5年以上の実務経験があれば、防火対象物点検資格者講習が受講できます。
建築設備検査員の資格取得に有利になる
特定建築物に設けられた建築設備(換気設備、排煙設備、非常用の照明装置、給水設備及び排水設備)のうち、特定行政庁が指定したものは定期的な検査及び報告が義務付けられています。その検査を行うのが、建築設備検査員です。
建築設備士資格があると、必要な実務経験なしに建築設備検査員講習が受講できます。さらに、講習科目の一部が免除(合計3科目のみ受講となる)となるため、建築設備検査員資格の取得に有利です。
建築設備士資格取得の流れと方法
建築設備士資格を取得するための流れと方法を解説します。
建築設備士試験の受験資格を満たす
建築設備士資格を受験するためには、学歴や取得資格に応じた実務経験が必要になります。具体的な受験資格は以下の通りです。
最終学歴(※1)または取得資格状況 | 必要な実務経験(※2)年数 |
---|---|
大学卒業 | 2年以上 |
短大、高等専門学校、旧専門学校 | 4年以上 |
高等学校、旧中等学校 | 6年以上 |
修業期限が4年以上の専修学校の専門課程を120単位取得して卒業 | 2年以上 |
修業期限が2年以上の専修学校の専門課程を60単位取得して卒業 | 4年以上 |
上記以外の専修学校を卒業 | 6年以上 |
一級建築士、1級電気工事施工管理技士、1級管工事施工管理技士空気調和・衛生工学会設備士、電気主任技術者(第1~3種とも)いずれかの資格を取得 | 2年以上 |
上記の学歴及び資格を所持しない建築設備に関する実務経験者 | 9年以上 |
※1 以下の学校の過程が受験資格として認められる。
建築(学)(工学)科、建築設備(学)(工学)科、設備工業科、設備システム科、建築設計科、建築設備設計科、
建設(学)(工学)科(建築(学)コースに限る)
機械(学)(工学)科、生産機械工学科、精密機械工学科、応用機械工学科、動力機械工学科、機械システム工学科、機械(・)電気工学科、
電気(学)(工学)科、電子(学)(工学)科、電気(・)電子工学科、電気システム工学科、電子システム工学科、
電気電子システム工学科、電気(・)機械工学科、電子(・)機械工学科、電気通信工学科、電子通信工学科、
通信工学科(「建築第2学科」等の第2学科を含む)
記載されている過程名と履修した過程名が異なる場合は、申込者ごとに提出された成績証明書または単位取得証明書により、一定の科目を履修していることが確認できたものが認められる。
※2 以下のものが建築設備に関する実務経験として認められる。
設計事務所、設備工事会社、建設会社、維持管理会社等での建築設備の設計・工事監理 (その補助を含む)、施工管理、積算、維持管理(保全、改修を伴うものに限る)の業務
官公庁での建築設備の行政、営繕業務
大学、工業高校等での建築設備の教育
大学院、研究所等での建築設備の研究(研究テーマの明示が必要)
設備機器製造会社等での建築設備システムの設計業務
建築設備士試験に申し込みをする
受験資格を満たしたうえで、建築設備士試験を申し込みます。建築設備士は、級や区分けなどはありません。申し込み方法は、公益財団法人建築技術教育普及センターの公式サイトからのインターネット受付のみとなっています。
- 申し込みに必要な書類や受講料は以下の通りです。
- 写真(無帽・無背景・正面上3分身で撮影されたもの)
- 受験資格を証明する書類(卒業証明書(卒業証書の写しは不可)及び成績証明書又は単位取得証明書、各資格の証明書等の写し)
- 受験特別措置に関する書類(受験に際して何らかの配慮が必要な場合)
- 受験手数料36,300円+ネット受付事務手数料
建築設備士試験のスケジュールと試験地
建築設備士試験は年1回、以下のスケジュールで実施されています。
- 受付期間…3月上旬~中旬
- 受験票の発行…5月中旬
- 第一次試験(学科)…6月中旬
- 第一次試験合格発表…7月下旬
- 第二次試験(設計製図)…8月中旬
- 第二次試験合格発表…11月上旬
建築設備士試験の内容や難易度について解説
建築設備士試験の試験内容や難易度について解説します。
建築設備士試験の内容
建築設備士試験は、学科の第一次試験、設計製図の第二次試験両方に合格して資格取得となります。なお第一次試験に合格すると、次の年から続く4回のうち任意の2回(同年に行われる「第二次試験」を欠席した場合は2回)について免除措置が受けられます。
試験内容は以下の通りです。
試験 | 解答方式 | 内容 |
---|---|---|
第一次試験(学科) | 四肢択一 | ・建築一般知識(27問)…建築計画、環境工学、構造力学、建築一般構造、建築材料及び建築施工 ・建築法規(18問)…建築士法、建築基準法その他の関係法規 ・建築設備(60問)… 建築設備設計計画及び建築設備施工 |
第二次試験(設計製図) ※課題は毎年異なり、受験票発行時に通知される | 記述及び製図 | ・建築設備基本計画(11 問)…建築設備に係る基本計画の作成 ・建築設備基本設計製図(選択制5 問)…空調 ・換気設備、給排水衛生設備又は電気設備のうち、受験者の選択する一つの建築設備に係る設計製図の作成 |
建築設備士試験の合格基準
合格には全体の合計基準点60%以上が必要です。さらに、建築一般知識は40%以上、建築法規は50%以上、建築設備は50%以上の得点が求められます。
全体の合計基準60%以上をクリアしても、3区分それぞれの点数が基準値を大幅に下回った場合は、不合格となります。
建築設備士試験の合格率と難易度
建築設備士試験の過去5年間の合格率は以下の通りです。
平成29年 | 平成30年 | 令和元年 | 令和2年 | 令和3年 | |
---|---|---|---|---|---|
第一次試験 | 28.9% | 31.2% | 26.8% | 25.7% | 32.8% |
第二次試験 | 52.2% | 52.0% | 54.3% | 41.4% | 52.3% |
受験者数 | 3,205人 | 3,335人 | 3,198人 | 2,811人 | 3,217人 |
合格者は5~6人に1人の割合と難易度が高いです。公益財団法人建築技術教育普及センターの公式サイトに過去問が公開されているため、参考にするとよいでしょう。
https://www.jaeic.or.jp/shiken/bmee/bmee-mondai.html
建築設備士試験の受験者属性
建築設備士試験合格者の属性を解説します。令和3年の合格者データから見た属性トップ3は以下の通りです。
職種別 | 1.空調設備関連職種…38.4% 2.電気設備関連職種…22.2% 3.その他…15.8% |
---|---|
勤務先別 | 1.建設会社…21.5% 2.その他(電力・ガス会社、不動産会社等)…20.7% 3.空調・衛生設備工事会社…17.6% |
職務内容別 | 1.設計…45.9% 2.施工管理…25.7% 3.その他…17.3% |
年齢別 | 1.29歳以下…22.8% 2.30~34歳…23.8% 3.35~39歳…17.3% |
平均年齢は37.4歳と、若い世代の受験者が多くなっています。
建築設備士資格を取得するための進路選び
建築設備士資格は一級建築士などの資格取得の道も開けることもあり、今後もニーズが高いことが予想される資格です。将来的に建築士として活躍したい場合でも、建築設備士資格取得後に建築士資格を取得する道も選べます。
建築設備士資格を取得するための進路の選び方を解説します。
実務経験の短さか早く現場にでるかで進路を決める
建築設備士試験の受験資格は、所定の学科を履修し大卒なら2年、短大や高等専門学校卒なら4年、専門学校卒なら2~6年、高卒なら6年の実務経験が必要です。
高校や短大、2年制専門学校は大学よりも早く卒業でき、早く現場に出られる一方、必要となる実務経験が長くなります。専門的な分野の知識を学びつつ、実務経験が短くできるメリットを得たいなら進路先として選ぶのは大学がおすすめです。
建築士資格取得を先にめざすなら建築関連過程
二級または一級建築士資格取得を最優先とする場合は、建築関連の過程のある大学を選びましょう。なお、建築士資格取得後に建築設備士取得も目指せますが、一般的には建築設備士資格の取得後に建築士を目指す場合が多いです。
建築士に興味がある方はこちらも参考にご覧ください
建築設備士取得なら建築のほか機械や電気関連過程も選択肢に
機械や電気関連の勉強がしたい人で建築設備士資格取得を目指すなら、建築以外に機械や電気関連過程のある学校も選択肢に入れられます。将来的に一級建築士を取得する場合でも、先に建築設備士資格を取得していれば、新たに建築関連の過程を履修し直す必要もありません。
久留米工業大学では、建築・設備工学科が建築設備士資格取得を支援しています。
建築設備士試験の勉強方法
所定の課程を履修したり、実務経験を積んだりし建築設備士試験の受験資格を取得すれば、いよいよ建築設備士試験に挑みます。
勉強方法としては、第一次試験の学科は独学での勉強でも合格できる可能性はあります。公益財団法人建築技術教育普及センターの公式サイトに掲載されている過去問や問題集などを活用しましょう。
第二次試験の設計製図については、一般社団法人日本設計設備事務所協会連合会が開催している準備講習会を受講するのがおすすめです。ただし人気が高く枠がすぐに埋まってしまうため、第一次試験に合格後すぐに申し込むのが良いでしょう。資金に余裕があり、スピード合格を目指したいなら民間の合格講座を受講する方法もあります。
建築設備士は将来のキャリアのためにも取得したい資格
建築設備士の仕事内容や取得するメリット、建築設備士資格の概要や難易度、進路の選び方や勉強方法を解説しました。
建築設備士は今後も建築資格としてのニーズが高いことに加えて、一級建築士をはじめ色々な資格を取得するうえでも有利となるメリットもあります。
将来の年収アップやキャリア形成にも役立つ資格ですので、将来建築関連の業種で活躍したいなら、ぜひ建築設備士資格取得を踏まえた進路を選びましょう。