高等学校教諭一種免許(工業)とは?何を教える先生?免許の取得方法や取得するメリットを解説

工学教育

工業高校や高校の工業科などで、幅広い工業関連の小科目を教えられる教員免許が高等学校教諭一種免許(工業)です。専門的な内容を扱う分野も多く、工業系の教員は生徒の将来に直結するスキルや知識を教える役割を持っているともいえるでしょう。

工業と他の教科や科目を比較すると、教えられる内容や取得方法で異なるポイントがあります。取得を目指す前に、免許の種類や教えられる内容、取得するための方法やメリットをしっかりと押さえておきましょう。これから高校の工業の教員を目指したい人や教員免許取得を迷っている人のために、高等学校教諭一種免許(工業)について解説します。これから自分の進路を決めるうえでも、ぜひ役に立ててください。

高等学校教諭免許(工業)とは?概要や担当教科を解説

高等学校教諭一種免許(工業)の概要について解説します。

高等学校教諭免許(工業)とは

高等学校教諭免許(工業)とは、高校の工業系教科・科目を教えるために必要な免許です。教職課程のある大学を卒業するなどして必要な単位を修得し、該当する都道府県の教育委員会に交付申請をすることで免許として授与されます。なお、他の教科や科目も含め、教員免許は国家資格ではありません。

高等学校のみに存在する免許

高等学校教諭免許(工業)は、高等学校区分のみに存在する教員免許です。国語、英語、数学など中学と高等学校両方に存在する教科・科目の教員免許とは異なります。

高等学校教諭免許(工業)と似ている免許に、中学校教諭免許(技術)があります。ただし、高等学校教諭免許(工業)と比較すると、必要な単位の種類や履修する科目が異なるものもあるため、取得の際には注意が必要です。なお、中学校教諭免許(技術)と高等学校教諭免許(工業)の同時取得ができる大学や大学院もごく一部あります。

高等学校教諭一種免許(工業)で教えられる教科・科目

高等学校教諭一種免許(工業)の最大の特徴が、免許ひとつで59科目を教えられることです。59科目の内訳は、機械系、電気系、化学系、建築系、工芸系、土木系、デザイン系と多岐にわたります。

数学は6科目、理科は9科目と、他の教科・科目の教員免許と比較しても工業の教員免許で教えられる科目の幅広さが分かります。

高等学校教諭一種免許(工業)の取得方法

高等学校教諭一種免許(工業)の取得方法を解説します。

大学または大学院の教職課程を履修し、卒業する

一般的な教員免許である「普通免許状」には、一種、二種、専修の3種類の免許があります。一種が大卒程度、二種が短大卒程度、専修が大学院相当以上です。高等学校の教員免許は、一種と専修のみで二種がありません。そのため、高等学校教諭免許(工業)を取得するには、大学または大学院の卒業が必須条件となります。

教員免許の種類や、高校教員になるための教員免許についてはこちらもぜひ参考にしてください。

高等学校教諭(工業)の教員免許が取得できる大学に進学し、必要な単位を修得して卒業するのが一般的な取得方法です。たとえば、久留米工業大学では機械システム工学科、交通機械工学科、建築・設備工学科、情報ネットワーク工学科で必要な単位を修得すれば、高等学校教諭一種免許(工業)が取得できます。

通信制大学では取得できないため注意

すでに短大や大学を卒業している方、または社会人として働いている方は通信制大学に通って教員免許を取得する方法があります。ただし、工業の教員免許取得に必要な教職課程を設けている通信制大学はありません。必要な単位を取得するために、特定の科目のみの履修や集中講義について大学に問い合わせる必要があります。

社会人経験のある人を対象に、限定的な教員免許を発行する「特別免許状」制度を利用する方法もあります。ただし、特別免許状の交付事例は多くありません。工業の特別免許状はほかの教科の免許よりも交付事例は多いものの、全国でもわずか7件にとどまっています(2021年7月現在)。
参考:https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/020202/020202e.htm

そのため、工業の教員免許を取るなら単位を修得できる大学を進学先に選び、卒業することが一番の近道となります。

高等学校教諭一種免許(工業)を大学で取得する方法

高等学校教諭一種免許(工業)を大学で取得するには、教育学部または対応している学部・学科の教職課程を卒業する必要があります。

教育学部を卒業する

大学の教育学部の教員養成を卒業する方法です。教育学部とは、名前の通り教育に関する学問の学習や研究を目的としています。教職に就くことを目的とした教員養成過程での履修のほか、初等教育や人間形成の在り方などを幅広く勉強します。

教職へ就くことを目的とした学部のため、教育全般に関する知識やスキルが身に付けられます。教育実習や大学4年次に受験する教員採用試験などを踏まえているため、教員免許取得および教員になるまでの計画が立てやすいメリットがあります。

デメリットは、教育全般に関する知識を広く学ぶため、高校の「工業」に直結する専門的な知識やスキルが身に付きにくいことです。教職と一緒に一般企業への就職活動を併用するときにも、進路の軌道修正がしにくいデメリットもあります。

対応している学部・学科のある大学を卒業する

高等学校教諭一種免許(工業)を取得できる学部・学科のある大学を卒業する方法です。工業の教員免許を取得できる学部や学科は幅広くあります。

電気系、化学系、機械系と各学部や学科によって専門的なスキルや知識を得られるメリットがあります。自分の得意なことや分野を専門的に勉強できるため、大学での勉強や教員免許取得へのモチベーションも保ちやすいです。

また後ほど詳しく説明しますが、教育学部はもちろん他の教科の教員免許を取得できる学部や学科と比較しても、少ない単位で教員免許を取得できるメリットもあります。

デメリットは、教育実習などが必要になるため教職課程を履修していない人に比べて大学生活がやや忙しくなることです。教員になるための勉強のほか、一般企業の就職活動、卒論なども併用するため、計画的に勉強を進める必要があります。

高等学校教諭一種免許(工業)が取得できる学部・学科

高等学校教諭一種免許(工業)が取得できる学部・学科は以下の通りです。

  • 教育学部…教員養成課程
  • 理工学部…創造工学科、機械工学科、情報電子工学部、システムデザイン学科
  • 工学部…応用理工系学科、環境社会工学科、地球未来デザイン工学科、建築学科、機械工学科、システム情報工学科
  • 建築学部…建築学科
  • 美術学部…建築学科
  • ライフデザイン学部…人間環境デザイン学科 など

高等学校教諭一種免許(工業)を取得するメリット

高等学校教諭一種免許(工業)を取得するメリットを解説します。

特例により他の教科・科目よりも取得する単位が少ない

教員免許を取得する場合、教科に関する科目の他、教職に関する科目も履修しなければいけません。一般的に、入学した学部や学科の授業で教科に関する科目の単位を修得し、教職課程を別に履修して教職に関する科目やその他の科目の単位を修得することになります。

高等学校教諭一種免許取得に必要な最低修得単位数

教科に関する科目教職に関する科目教科または教職に関する科目その他
2023168

一方、工業の教員免許は「専門科目の履修をもって教職課程を履修したものとみなす」という特例措置があります。そのため、ほかの教科・科目の教員免許よりも必要な単位が少なくなるのがメリットです。他の教科・科目よりも楽に教員免許が取得できるため、教員採用試験対策と一般企業の就職活動も両立させやすいでしょう。

実践・専門的な分野を学べる

工業の教員免許の科目履修数が少ない理由として、生徒へスキルや知識を教える工業系授業を担当する教員をできるだけ多く補うことがあげられます。高度成長期、中堅技術者を多く養成するために工業高校が多く誕生しました。工業高校での教員をできるだけ多く拡充するために、工業の教員免許の特例措置が設けられたのです。そのため、高等学校教諭一種免許(工業)は、大学で学ぶ知識も実践的なものが多くなっています。

得意分野を活かして教鞭を振れる

工業の教員免許を取得して高校の教員となった場合、工業高校の他、工業科、土木科、機械科、電気科などの専門的なコースの教員になることが多いです。自分の得意な分野を活かして教鞭を執ることができます。生徒の将来に直結する知識やスキルを授業として教えるため、教師としてのやりがいもあるでしょう。

専門分野以外の採用枠も受けられる

教員になるには、自治体または私立学校の教員採用試験を受け合格しなければいけません。採用試験は、「中学校」「高等学校」などの区分に加えて、「英語科」「数学科」などの教科枠があります。

工業はひとつの免許で50以上の科目が教えられる、ある意味特殊な教員免許です。そのため採用試験でも「工業」の教科枠の下に「土木」「建築」「電気」などの各小科目枠で募集される場合があります。自分の専門分野以外の採用枠での挑戦もできるので、教員になれるチャンスが広げられるのもメリットです。

高等学校教諭一種免許(工業)を取得するデメリット

高等学校教諭一種免許(工業)のデメリットを解説します。

教員採用枠が少ない

高等学校教諭一種免許(工業)は、取得単位数が少ないことから他の教科よりも教員免許を取りやすくなっています。そのため、採用試験の倍率がやや高いデメリットがあります。

ただし、倍率は自治体によって異なります。複数の自治体の教員採用を併願する、私立の工業高校の採用も併願する、などが有効です。

指導や教育に関する知識やスキルは身に付かない

教職に関する科目を履修しなくても、高等学校教諭一種免許(工業)は取得可能です。そのため、教育、学習、学校制度などの分野の知識やスキルが大学で身に付かないデメリットがあります。たとえば「学習指導要項」などの専門用語が出てきても、理解できない場合もあるでしょう。

指導や教育に関する知識やスキルは、採用試験の他、実際の教育現場でも必要になってきます。余裕があれば、少し教職の単位も取っておくとよいでしょう。

科目間の異動がある

ひとつの免許で50以上の小科目を教えられる免許のため、教員採用後自分が担当する科目が年度によって変わることがあります。

自分の得意な分野の科目を担当していたのに、翌年は全く知らない分野の科目を担当する、という可能性もあります(例えば、その年は土木科で教鞭を執っていたものの、次年度はデザイン科担当になる)。教員採用後は、担当する科目に応じていろいろなことを勉強しなければいけません。

後からの取得が難しい

高等学校教諭一種免許(工業)は、通信制大学での教員免許取得ができません。卒業後工業に関する仕事をしていて「工業の先生になりたい」と思っても、後から取得するのが他の教科・科目よりも難しくなっています。少しでも教職に興味があるなら、大学在学中に取得しておくようにしましょう。

高等学校教諭の難易度は?

「工業」および高等学校教諭の採用試験倍率は、他の教科および区分よりも高めになっています。ただし、教員採用試験全体の倍率が下がっているため、今後チャンスが広がる可能性も十分にあります。

IT技術の進歩によって、工業に関連する人材のニーズが高くなりました。工業の教員を拡充するため、社会人枠ともいえる特別免許状の授与件数も英語の次に多くなっています。在学中に高等学校教諭一種免許(工業)を取得しておけば、一度社会人になっても特別免許枠を狙わず、教員採用試験を受けて教員を目指せます。

まとめ

高等学校教諭一種免許(工業)の特徴や取得方法、メリット、デメリットについて解説しました。高等学校教諭一種免許(工業)は幅広い科目を担当できる、履修する科目が少ないなど、他の教科の教員免許にはない特徴があります。この背景には、かつて高度成長期を支える人材を育成できる教員を多く輩出するため、という目的がありました。現在、IT技術の進歩により工業系の教員のニーズは再び高まっていくことが期待されています。

工業系の授業を担当する教員は、工業や電気や土木、建築など私たちの生活を支えるインフラから、システムデザインなどニーズの高いIT関連まで専門的なスキルや知識を学生に教えます。工業系の教員は、生徒を将来スケールの大きな仕事に導く存在です。高等学校教諭一種免許(工業)を、ぜひ取得してみましょう。

 

高等学校教諭一種免許(工業)の取得を目指せる学科

 

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