「STEM(ステム)教育とはどのような教育プランのこと?」
「STEM(ステム)人材とはどのような人材のこと?」
まだ日本では聞きなれない言葉かもしれませんが、この「STEM(ステム)」というキーワードは今後の日本の科学技術分野にとって、非常に大きな鍵を握っています。
理系教育を受けて、工学分野で社会人として働いた経験者が、これからの理系・工学人材を育てるために重要な「STEM(すてむ)教育」について解説いたします。
目次
STEM教育とは
STEMとは、アメリカ発祥の言葉です。Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字をとってSTEM(ステム)と呼ばれています。なんだか、理系という感じがしますよね?
STEMは科学技術開発に重要な分野と言われています。そして、科学技術開発は、国際競争力を高めるために必須の分野となっています。
そこで、将来、科学技術の分野で活躍できる人を育てるための政策として注目されたのが、STEM教育です。 日本では、アメリカ合衆国のオバマ前大統領が2009年にSTEM教育に力をいれると発表したことがきっかけで、一般的に知られるようになりました。
STEM教育、STEM人材とは
科学、技術、工学、数学の分野を統合的に学び、将来、科学技術の発展に寄与できる人材を育てることを目的とした教育プランのことをSTEM教育と呼びます。 そして、そのような教育を受けた人をSTEM人材と呼んでいます。
科学、技術、工学、数学と言われても、よくわからないという人も多いと思いますので、まずは、先程紹介した4つの分野をそれぞれ説明します。
- Science(科学)・・・実験・観察をもとに法則性を見つけ出すこと
- Technology(技術)・・・最適な条件・しくみを見つけ出すこと
- Engineering(工学)・・・しくみをデザインし、社会に役立つモノづくりをすること
- Mathematics(数学)・・・数量を論理的に表したり使いこなすこと(※1)
これらは便宜上、名前で分類されていますが、どれも科学技術に必要なもので、お互いの分野が有機的に関わりあっています。
そして、現在の技術開発はこれらの分野を総合的に学ばないと不可能になってきました。そこで、STEM分野を若いうちに学ぶ教育、すなわちSTEM教育が考えられたのです。
なぜ総合的に学ぶ必要があるのか?
先程、現代の技術開発はSTEM分野を総合的に学ばないと不可能になってきたとお伝えしました。なぜでしょうか?
分かりやすいように、ガラケーとスマホを例に挙げて説明します。
ガラケーの時代は、「カメラの画素数が上がりました」「電池が長持ちするようになりました」「画面が高精細になりました」というものが主な売り文句でした。 電池のことしかわからないスペシャリスト、カメラのことしかわからないスペシャリスト…と各分野のスペシャリストが自分の分野だけ研究し開発した結果、スペックだけの向上になっていた一面があります。
しかしながら、現在のスマホの新作は「アプリとカメラがより連携をとることで、こんな機能が増えました」「AIがみなさんのかわりに〇〇してくれます」といった総合的な技術の発表が目立ちますよね?
これは、各々のスペシャリストが他分野の知識をある程度持った上で、お互いのスペシャリストと連携しあって研究開発したからです。
現在、求められているのはスペックの向上だけではなく、その機器で何ができるのか?何が便利になるのか?ということなのです。 開発者は、自分の得意分野以外も総合的な知識がある程度わかっていないと話にならないという状況へシフトしつつあるのです。
STEM教育・STEM人材が求められている理由
日本の課題
イギリスの人材紹介会社のヘイズに、日本は以下のように評価されています。(※2)
「日本では、技術が進化するスピードに人材のスキルが追い付いていない状況で、 AI技術者や自動運転技術者など、世界で開発競争が繰り広げられている最先端分野における人材不足が最も深刻な状況です。」
そして、「STEMスキルをもつ人材が益々求められる」 「日本では、一つの専門分野を深く追求することがよしとされる傾向がありますが、世界的に、企業が人材に求めるスキルはますます複雑化、多様化しています。 語学やビジネススキルなど、現在の専門分野に加えていくつかの専門分野を併せ持つ人材が今後ますます必要とされる」 と予想されています。
実際、近年ではアメリカのように世界に名を馳せるような新しい企業が日本からはあまり出ていません。 科学技術開発に乗り遅れない人材を育てるためにSTEM教育が必要とされています。
将来の人材育成
今後、他分野の知識をベースに持つジェネラリストが必要になるとされています。
「理系というとスペシャリスト、一つのことを極める!」というイメージが強いですよね?もちろん、そのスペシャリストは依然として必要です。
しかし、IT社会となった今、ベースとして総合的な理系の知識を持った上で仕事ができるジェネラリストが求められつつあるのも事実です。
STEM教育の取り組み
アメリカでの取り組み
アメリカはSTEM分野の経済はこれからも大きく成長していくと考えており、非常に重要であると位置づけています。
そして、STEM関連の職業に需要が高まり続けると予想される中、その人材が足りなくなると危惧されています。 具体的には、「需要に対し 今後 10 年間のSTEM 分野学位取得者が 100万人不足する」と言われています。
そこでアメリカは2013年に、STEM EDUCATION 5-YEAR STRATEGIC PLAN(STEM教育5カ年戦略計画)(※3) を発表し、未来のSTEM人材育成に、年間約30億ドルもの予算を投じています。
具体的には、
- 今後10年間でSTEM分野の大学卒業生を100万人増加させる、
- 高校卒業までにSTEM分野の経験を持つ若者を毎年50%増加させる、
- 少数派層(女性やSTEM系の就職率の少ない人種)にSTEM分野への機会を提供する※特に女性のSTEM分野の参画を促す
等といった目標が掲げられています。
アメリカがSTEM教育に力を入れているのがよくわかりますね。
海外でも注目のSTEM分野
「2013年のSTEM卒業生が学生全体の40%を占めたが、2030年にはその割合は60%に達するとの予測もある。」という発表がFORBES JAPANからありました。(※4 )
また、インドネシアでもSTEM卒業生が急増しているそうです。
STEM教育で話題になったのが、2016年に発表されたMicrosoft社のMinecraftEduです。
Minecraftとは俗にいうマイクラのことです。ブロックを積み立てて遊ぶサンドボックス型のゲームです。このマイクラでプログラミングを学べるのがMinecraftEduです。
このソフトを利用した授業は、世界40カ国7,000以上の教室で行われているそうです。
STEM分野は、現在そして未来でも発展が見込めるため、各国でも注目されているのです。
国家としての将来目標
日本もSTEM分野の人材育成に乗り出しています。
2016年、経済産業省と文部科学省が共同して、「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」を開催しました。 (※5)
この会議は、「理工系人材は、特に産業界において、イノベーション創出に欠くことができない存在として、人材需要が高まっている状況であり、産業界で活躍する理工系人材を戦略的に育成する方策を検討する」ために行われています。
また、2016年に文部科学省が小学校でのプログラミング教育を必修化を検討すると発表しました。日本がSTEM教育に注力しつつあることが伺えます。
プログラミング教育
小学校でのプログラミング教育の必修化は未だ検討段階で、2020年度からの新学習指導要領に盛り込む予定のものです。日本で幅広くSTEM教育が始まるのは少し先のようです。
しかし、STEM教育への注目は加速しており、様々な民間や団体がSTEM教育サービスや学習用の製品を提供しています。
例えば、先程紹介したMicrosoftのMinecraftEduがその一例です。Sonyからは、KOOVというロボット・プログラミング学習キットも提供されています。
ここで注意しておきたいことが一つあります。プログラミング教育の目的は、「コンピューターがプログラムという命令で動いていて、その命令を与えることがプログラミングであるということを理解することだ」という点です。
つまり、コンピューターの仕組みを理解することが目的なのです。決してプログラマーを育てるために学習するわけではありません。(※6)
STEM教育の協会や団体
下記のように、STEM教育の協会や団体が設立されていますので、ご興味のある方は是非ご覧ください。
STEM教育の課題
STEMを教育する側の人材、すなわち教師も足りていないのが現状です。 STEM教育は最近注目され始めたばかりで、まだ発展段階です。
そのような中、久留米工業大学には、理数系教員養成(中高)に特化した学科がありますので、ご興味がありましたら、是非ご覧ください。
女子のSTEM人材が求められている
STEM教育を提唱し、いち早く取り組んでいるアメリカですが、2017年の統計によると、STEMの仕事についている女性の比率が極端に低いことを問題としています。 仕事全般での男女比は男性53%、女性47%ですが、STEM系の仕事になると男女比は男性76%、女性24%と極端に女性が少なくなっています。(※7)
日本でも、STEM女子、すなわち「リケジョ」人材が不足しており、問題視されています。特に工学系・理学系の女性の人数は需要に対し、極端に少ない状況です。
どの分野に進もうかまだ悩んでいる方がいらっしゃいましたら、是非理系を選択してください。理系の将来はとても明るいです。
※リケジョについての記事が別途ありますので、よろしければこちらをご覧ください。
https://www.kurume-it.ac.jp/style/category/rikejo
本文中の参考URL
※1 参考
※2 ヘイズ 世界33カ国人材の需給効率調査 日本の人材不足は世界ワースト2位
https://www.hays.co.jp/press-releases/HAYS_1928787
※3 FEDERALSCIENCE, TECHNOLOGY,ENGINEERING, AND MATHEMATICS(STEM) EDUCATION 5-YEAR STR ATEGIC PLAN
https://www.whitehouse.gov/sites/whitehouse.gov/files/ostp/Federal_STEM_Strategic_Plan.pdf
※4 STEM卒業生が最も多い国ランキング
https://forbesjapan.com/articles/detail/16442
※5 経済産業省「理工系人材育成に関する産学官行動計画」
http://www.meti.go.jp/press/2016/08/20160802001/20160802001.html
※6 小学校プログラミング教育の手引(第一版) 平成30年3月
※7 Women in STEM: 2017 Update
http://www.esa.doc.gov/sites/default/files/women-in-stem-2017-update.pdf