2020年までに自動運転を前提とする道路交通法の見直しを行うこと、また2030年までに国内で販売する新車の3割以上を自動運転に対応させるという目標を、政府が6月にまとめる成長戦略に盛り込むことが日経新聞の報道で明かされました。
これまでもテレビや新聞などで目にすることの多かった自動運転技術ですが、この報道をきっかけにさらなる動きを見せるでしょう。
すでに多くの関心を集めているニュースではありますが、これは工学の道を目指す学生にとっては特に注目すべきニュースです。なぜなら工学系、特に機械系・電気系の学生は将来自動運転技術に携わる可能性が非常に高いから。
そこで今回は自動運転技術が注目される理由や自動運転の基本的な知識、今後の展望についてご紹介します。
目次
自動運転が注目される理由
運転が自動化されることにはいくつものメリットがありますが、中でも注目されているのは交通事故を大幅に減らせるという点でしょう。
警察庁交通局が作成した「平成29年度中の交通事故の発生状況」によると、交通事故の発生件数は日本全国でおよそ47万件。そのうち信号無視や速度違反、安全不確認など法令違反によって発生した事故はおよそ45万件です。つまり交通事故の95%ほどは人間の過失によって起きている事故だと言えます。
すべてのドライバーが十分事故に気を付ければ事故は減らせるでしょう。しかし全員に交通ルールを徹底させることは現実的なことではありませんし、仮にルールの徹底ができたとしても、疲れがたまって判断力が低下したりうっかり操作を誤ってしまったりということは避けられません。
自動運転技術が十分に成熟し普及が広がれば、人間の判断ミスによる事故はなくなり、交通事故の件数は今とは比べ物にならないほど少なくなるはずです。
そもそも自動運転とは何か?
自動運転というと、目的地を指定するだけで後は勝手に車をコントロールしてくれるというイメージを持っている方もいるでしょう。もちろん最終的にこのレベルを目指すことになりますが、実際はまだここまで技術が進んでいるわけではありません。
現在の自動運転技術はアメリカの非営利団体SAE Internationalが定義したレベル0~5に分かれています。
レベル0
自動運転技術をまったく使っていないのがこのレベルです。すべての操作がドライバーに委ねられています。
レベル1
運転の一部をシステムが補助するレベルです。車線からズレたときに修正するなどの操舵、先行者との距離を一定にするなどの加速、障害物を検知してブレーキをするなどの制動。これら3つのうちいずれか1つをシステムが補助します。
レベル2
レベル1では操舵、加速、制動のいずれか1つでしたが、レベル2ではこのうち複数を補助します。このレベルまでは一般的に自動運転とはみなされず、あくまで運転支援と呼ばれています。
レベル3
操舵、加速、制動の3つすべてをシステムがコントロールするレベルです。緊急の場合など、システム側から要請があった場合のみドライバーが介入します。
基本的にレベル3以上の車が自動運転とされており、冒頭で紹介した2030年に新車の3割以上を自動運転にする、というのもレベル3以上の車のことを指しています。
レベル4
レベル4からは基本的にすべての操作を自動運転システムが行います。出発地点から目的地までドライバーが一切操作しなくなるのもこのレベルです。
ただこれが実現できるのはあくまで特定の条件下にある場合。住宅街のような狭い道など、イレギュラーな状況下ではドライバーがハンドルを握る場合があります。
レベル5
どんな状況でもすべてがシステムによってコントロールされる段階です。人間がまったく操作をする必要がなくなるためハンドルやブレーキを用意せずに済むレベル。自動運転の究極形と言えるでしょう。
自動運転技術はどこまで進歩している?
スバルのアイサイト、日産のプロパイロットなどのCMを見ても分かるように、レベル2までの車はすでに実用化されています。レベル3の自動運転車も実用化が進められており、ドイツの自動車メーカー「アウディ」は2018年中にレベル3相当の自動車を販売すると発表しています。レベル4以降の実験走行も世界各地で行われており、今後私たちがレベル4以降の車を目にする機会は増えていくでしょう。
海外と比べた日本の技術力
日本の技術力が優れているという話は聞いたことがあるでしょう。たしかにAIやIoT分野については今でも高い水準にありますが、その他に必要となる技術についてはそうとも言えません。
例として挙げられるのが半導体。自動運転技術を実現するためには走行中の画像を処理するための半導体が必要ですが、これを作るための技術力は他の国に比べるといくらか出遅れています。他にも地図情報やセキュリティという面でも遅れている部分はあり、自動運転技術について日本が特別リードしている状況とは言えないのです。
とはいえ自動車産業は日本を支える主要な産業の1つ。国を挙げて取り組み始める動きも出てきているため、今まで以上に力を入れて技術開発が進んでいくことでしょう。今後さらなる進歩が見込める分野であることは間違いありません。
自動運転に使われる技術
先ほども少し触れましたが、自動運転を支える技術は1つではありません。具体的にはどのようなものがあるか簡単に解説していきます。
画像処理
私たちが目を使わずに運転することはできないように、自動運転にはカメラなど外界の状況を認識するためのセンサーが必要です。もちろん取り入れた画像を処理できるだけのソフトウェアも必要ですし、処理に耐えられるだけのハードウェアも重要です。自動車の動く速度に追いつけるだけの処理能力が必要ということを考えれば、どれだけ高性能なものが必要になるかはいくらか想像できるのではないでしょうか。
AI
AIはartificial inteligenceの略で、言わずと知れた人工知能のこと。
「狭い道では子供が飛び出してくるかもしれないからスピードを落とす」などのように、道路状況を考慮して安全に自動運転を行うためには柔軟な判断ができるAIの搭載が必要不可欠です。
IoT
より便利で安全な自動運転を実現するためにはIoTの技術も重要です。IoTとはInternet of Thingsの略で、日本語ではモノのインターネットと呼ばれる技術。車同士がネットワークでつながることにより渋滞の解消、衝突の防止が実現できます。
セキュリティ
車がネットワークで管理されると心配になるのがセキュリティの問題。今でも会社のセキュリティが破られて個人情報が流出するといった報道を見ることがありますよね。同じように自動運転車のネットワークのセキュリティが破られると、最悪の場合意図的に事故を起こされるなんてことにもなりかねません。
自動運転の技術を考えるときはAIなど直接動作に関わる部分が注目されがちですが、IoTなど車にもネットワーク技術が使われるようになっていけばセキュリティにもしっかり目を向ける必要があります。
自動車以外にも活用されている自動運転技術
人が運転する乗り物はなにも乗用車ばかりではありません。それでは他の乗り物についても自動運転技術は使われるようになるのでしょうか?
飛行機
飛行機については2018年中に完全な自立飛行の実験を行うという話も出ています。しかし実は今飛んでいる飛行機もほとんどがロボット操縦によるもの。高度が安定した後はパイロットもほとんど操作していないのです。車の自動運転のレベルで例えるなら、飛行機はレベル3まで実現していると言えます。
建機
トラックやブルドーザーといった建機でも自動運転化は進んでいます。それどころか実用レベルは乗用車以上に高く、すでに現場では無人の建機と人間が一緒に働いているほど。建機の自動運転は人手不足解消にももちろん、人間では難しい複雑な動作の実現ができるというメリットもあります。
自動運転技術実用化の課題
良いことばかりに思える自動運転技術ですが、もちろん課題もあります。一番はやはり法整備の問題でしょう。自動運転が人の運転する車より安全になるだろうとはいえ、万が一事故が起こった場合は誰に責任があるのか?という大きな問題があります。また自動運転が社会にどの程度受け入れられるのかもポイント。まだまだ自動運転に怖いという印象を持っている方は多いため、この恐怖心を取り除けるだけの安全性を証明していく必要があります。
何点かの課題はありますが、自動運転技術を活用して便利で安心な車社会が実現させようという動きはすでに始まっています。今さら自動運転は止めにしようとは誰も言えません。一般への普及はまだまだ時間がかかるものとは思われますが、皆さんが社会に出るころには自動運転に知見のある技術者の需要がさらに高まっていることでしょう。