私たちの生活を支えている物の中には、知識なく扱うと、大事故を起こすような危険物質も含まれています。
業務上で、危険物を安全に取り扱うために設定されているのが「危険物取扱者」という資格です。
この資格を持っていると具体的に何ができるのか、どのような試験を受ければ取得できるのかなど、危険物取扱者について基本的な部分を紹介していきます。
目次
危険物取扱者とは
「危険物取扱者」とは、一定量以上の危険物を貯蔵したり、取り扱ったりするために必要な資格、またはその資格を持っている人のことをいいます。
また、危険物取扱者は、「消防法」という法律で定められた国家資格でもあります。
ガソリンや灯油など、火災の危険性が高い物質は、消防法で危険物に指定されており、取り扱う際は、適切な管理が必要であると定められています。これらの取り扱いに立ち会う際に求められるのが、危険物取扱者なのです。
危険物取扱者が必要とされる場所には、
- 一定量以上の危険物を貯蔵、取り扱う化学工場
- ガソリンスタンド
- 石油貯蔵タンク
- タンクローリー施設
などが挙げられます。
危険物取扱者が活躍できる仕事はどんなもの?
危険物取扱者の資格には、3つの種類が存在し、種類によって業務内容は少し異なりますが、主に以下のような仕事に携わることができます。
- タンクローリーの運転:有資格者の同乗が必要(運転義務はなし)
※資格を持つ人が同乗していなければ、運転免許があってもドライバーは運転できない - ガソリンスタンドの店員:スタンドのコントロールブースにて、顧客の給油を監視
- 工場などの監督者:危険物取り扱い作業において、保安の監督業務や指示出し
危険物取扱者が取り扱う危険物の種類
消防法では、火災の危険性が高い物質を「危険物」と指定し、6つに分類しています。それぞれ特徴が異なり、扱う際の注意点も異なります。
- 第1類:酸化性固体塩素酸ナトリウム、硝酸カリウムなど
- 第2類:可燃性固体硫黄、鉄粉など
- 第3類:自然発火性物質及び禁水性物質ナトリウム、黄リンなど
- 第4類:引火性液体ガソリン、灯油など
- 第5類:自己反応性物質ニトログリセリン、トリニトロトルエンなど
- 第6類:酸化性液体過塩素酸、過酸化水素など
次項では、資格の種類別に分けて、取り扱える危険物について解説していきます。
危険物取扱者の資格の種類
危険物取扱者には「甲種」「乙種」「丙種」の3種類があり、資格によって取り扱うことができる危険物が異なります。それぞれの特徴を確認してみましょう。
甲種(こうしゅ)
甲種は、消防法で定められた第1類~第6類全ての危険物の取り扱い、無資格者への立ち会いができます。すべての危険物を扱うことができるため、特に大量の薬品を使う工場などで重宝されます。
また、6ヶ月以上の実務経験があれば、危険物保安監督者になることもできます。乙種、丙種と違って受験資格が設定されているため、取得を目指すのであれば受験の計画を立てなければなりません。
乙種(おつしゅ)
乙種は、さらに第1類から第6類に分かれており、試験に合格した類の危険物のみを取り扱うことができます。
中でも「乙種第4類危険物取扱者(乙4)」が人気で、多くの人が受験しています。その理由は、第4類可燃性液体は、ガソリンや灯油など身近な石油類が当てはまるからです。身近ゆえに初学者でも理解しやすく、他の類と比べると取得しやすいでしょう。
また、乙種には受験資格が設けられていないため、働きながらでも資格獲得を目指すことができます。1つ取得すれば他の類を受験する際、試験科目が大幅に免除されるというメリットもあります。
丙種(へいしゅ)
丙種は、ガソリン、灯油、軽油、重油といった一定の第4類危険物に限り取り扱うことができる資格です。
3種類の中で最も扱える危険物に制限が加えられることになります。また、無資格者への立ち会いができない、危険物保安監督者になれないなどの制限もあります。
丙種の危険物取扱者資格を保有していると、セルフガソリンスタンドの監視員はできませんが、ガソリン製造所などでは活躍することができます。
危険物取扱者になるには
危険物取扱者の資格を取得するには、どのような方法があるのでしょうか。危険物取扱者の種類ごとに受験資格が異なるため、詳しく確認してみましょう。
化学に関する学科に進学して受験資格を得る
3つの種類のうち「甲種」には受験資格が設けられており、それを満たさなければ試験を受けることができません。
具体的には、
- 大学、短大、高専で化学に関する学科・課程を修める
- 化学系の学科・課程を専攻し、修士や博士の学位を取得する
上記のいずれかで、晴れて受験資格を得ることができます。
もし、現在高校生で危険物取扱者の資格取得を考えているなら、それを視野に入れて学校を選ぶのもいいでしょう。
受験資格を得られるのはもちろん、大学や専門学校で体系的に学ぶことで、危険物だけではない幅広い知識を得ることができます。
乙種から受験する
甲種には受験資格が設けられていますが、乙種と丙種には特に受験資格がなく、誰でも受験することができます。そのため、将来的に甲種を取ることを見越しつつ、乙種から受験するというのも一つの方法です。
具体的には
- 乙種全6種類のうちいずれかを取得し、2年以上の実務経験を積む
- 乙1または乙6、乙2または乙4、乙3、乙5の4種類の試験に合格する
上記により、甲種の受験資格を得ることができます。
ちなみに、ガソリンスタンドや石油倉庫、石油運搬企業などの求人が多い、乙4から取得するのが一般的です。
危険物取扱者の資格を取得するメリット
危険物取扱者の資格を取得すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。詳しく見てみましょう。
就職に有利
やはり、就職に有利であるのは大きなメリットでしょう。危険物取扱者は即戦力として評価されるため、若い人だけではなく、幅広い年齢層で安定したニーズがあります。
また、危険物を取り扱っている企業は、その事業規模に応じて有資格者の配置が義務付けられています。そういう意味でも雇用が安定しており、「将来仕事がなくなってしまう」という不安とも無縁と言えるでしょう。
幅広い業界でニーズがある
危険物を扱っている企業と聞くと、ガソリンスタンドや石油関連企業などが思い浮かぶでしょう。しかし近年、危険物を扱う業種が増えていることから、有資格者の活躍するフィールドは拡大しているのです。
- ビルメンテナンス:ボイラーや非常用発電機の燃料に、重油や軽油が使われていることがあります。特に非常用発電機は法的な設置義務があるため、ほとんどのビルに設置されています。
- 消防士:消火活動を行う上で、危険物や燃焼理論、消火剤の知識などが役に立ちます。
- 発電所:危険物を取り扱う作業があります。
- 食品工場:動物油や植物油を使用するため、関連する油類の知識が必要とされます。
危険物取扱者の資格取得の懸念点
資格取得の懸念点として、時間と費用が挙げられます。試験の手数料はそれほど高額ではなく、甲種6,600円、乙種4,600円、丙種3,700円ですが、テキスト代なども頭に入れて置かなければなりません。
また、甲種の場合は受験資格が定められているため、ゼロの状態から資格取得を目指すのであれば、年単位の時間がかかります。学校に通う場合は、その学費についても考えておく必要があるでしょう。
甲種は試験内容が高度なので、それをクリアするための勉強時間もそれなりに取らなければなりません。学習内容は暗記が多いため、時間をかけてコツコツ努力していく必要があります。
危険物取扱者資格の難易度
資格取得をする上でやはり気になるのが、実際の試験の難易度でしょう。甲種、乙種及び丙種ともに3つの試験科目があり、それぞれ60%以上正解で合格となります。
問題の内容や合格率などを知り、早め早めの対策を取ることが大切です。
甲種(こうしゅ)
試験は五肢択一のマークシート方式で、試験時間は2時間30分です。
- 危険物に関する法令(法令)15問
- 物理及び化学10問
- 危険物の性質並びにその火災予防及び消火の方法(性消)20問
上記が出題されます。
甲種の合格率は35%ほどで、他の2種に比べると難易度は高めです。受験資格が設定された上での35%なので、しっかり勉強する必要があるでしょう。
「乙種はすぐ合格したが、甲種は何度も受けた」という人も少なくありません。
乙種(おつしゅ)
乙種も五肢択一のマークシート方式ですが、試験時間は少し短く2時間に設定されています。
- 法令15問
- 基礎的な物理学及び基礎的な化学10問
- 性消10問
上記が出題されます。
合格率は乙種平均が70%前後、乙4のみの合格率だけなら、35%ほどです。
合格率が下がる理由は、乙4が飛び抜けて難しいからではありません。人気が高いため受験人数が多く、あまり勉強していない人も受験することが理由です。難易度自体はそれほど高くなく、初学者であっても十分合格を狙えるでしょう。
丙種(へいしゅ)
丙種は四肢択一のマークシート方式で、試験時間は1時間15分です。
- 法令10問
- 燃焼及び消化に関する基礎知識5問
- 性消10問
上記が出題され、合格率は50パーセントほどです。
扱うことができる危険物が制限されているため、試験の難易度も下がっています。
参考書などを見て「乙4は自分には少し難しいな」と感じたら、丙種取得を目指してみるといいかもしれません。
危険物取扱者に義務付けられていること
危険物取扱者には受講義務があります。危険物取扱者の資格を有しており、かつ危険物取扱作業に従事している人は、「保安講習」を受けなければなりません。
受講するタイミングは、
- 免状が交付された日、または最後の保安講習受講日から3年以内
- 新たに危険物の取扱作業に従事する場合は、新たに従事する日から1年以内
となっています。
保安講習を受ける目的は、順次更新される消防関連法令や、危険物に関する新しい知識を身につけるためです。受講義務を怠ると、免状の返納を命じられる可能性があります。
また、受講義務とは別に、資格の更新をする必要があります。具体的に有効期限や更新制度がある訳ではありませんが、免状に添付された写真の有効期限が10年以内と決まっているため、長くとも、10年ごとに写真を新しいものにする必要があるのです。
そのほか、記載内容に変更があったときも更新する必要があります。
計画的に資格取得を目指そう
危険物取扱者資格には3つの種類があり、扱うことができる危険物が異なります。
資格を保有していると就職に有利ですし、資格を活かせる業界も広がっています。また、危険物に関する知識は、日常生活でも大いに役立てることができるでしょう。
メリットや自分の希望なども考えつつ、資格取得を目指してみてはいかがでしょうか。