理系大学院生の就職事情!就活の様子から院生ならではの強みまで

文部科学省が毎年発表している「学校基本調査」によると、平成29年度は、25万人を超える学生が大学院(修士・博士・専門職学位過程)で学んでいます。特に理系の学生は、文系と比べて大学院に進学する割合が高いのが特徴です。

ただ、大学院をよくご存じない方にとっては、ニュースで取り上げられるポスドク(※)問題などの印象が強く、大学院に行ったら、就職できないのかな……、そんな不安をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。実際に親から「就職できなくなるから止めなさい」と言われた友人もいました。

そこで、今回は理系大学院生のリアルな就職事情について筆者や友人の経験をまじえながらご紹介します。

(※)「ポスドク」とは、ポストドクターの略である。博士号は取得したが、正規の研究職または教育職についていない者を指し、多くは常勤研究職になる前の研究者のことをいう。全国におよそ1万人以上がいるといわれており、若手の研究者の多くは大学などの「ポスドク」(非常勤職員)として雇用され、我が国の研究活動を支えている。

理系院生の就活は厳しい?

学部生と比較して年齢を重ねているものの、ビジネス経験が乏しいという微妙な立場におかれているのが大学院生です。また一般に大学院卒は、学部卒よりも初任給が高く設定されています。このため、同程度のスキルであれば、企業が学部生を採用するのは当然の流れとも言えるでしょう。つまり、大学院に進学するのであれば、学部卒のときとは意識を変え、自分に付加価値を付け就活に望まなくてはいけません。

理系院生の就活が大変な理由

研究との両立で時間がない

大学院生の主な活動は「研究」。理系院生の場合は、実験などがあると、就活だけに専念できる時間を作りにくいのも現実です。昼間に面接を受けに行き、夜中に実験をしている人もよく見かけます。研究については、ある程度、周囲の協力も得られますが、どの程度サポートを得られるかは、先生の考え方、研究室の雰囲気によるところも大きいでしょう。学部生の場合、何社も受ける方を見かけますが、大学院の場合は厳選して就活をする人が多い印象です。

研究と就職先が繋がらない

研究職を目指し大学院に進学する方も多いですね。大手になると修士卒が応募条件になっていることもあります。一方で、分野によって研究職は非常に狭き門。似たような分野の研究職に着ければ良いほうだと考えておいたほうがいいでしょう。研究分野にこだわりすぎると、キャリアの幅を狭めてしまうことにもつながります。分野については固執しすぎず柔軟性も持っておくと就職先を探しやすいです。

別の事例として、大学院卒という理由で、本人は現場希望だったにもかかわらず、研究所に配属された先輩もいました。5年ほど研究所勤めをした後、希望が叶って現場に配属されましたが、研究所にいた5年間はモチベーションを維持するのが大変だったようです。

ポスドク(※)と就職

博士課程に進学する場合、就職については、修士課程以上の覚悟が必要です。もちろん、アカデミックな場などは、博士号を持つ人材が求められています。ただし、日本だと正規の職員募集自体が少なく、その少ないポジションを狙い、高い倍率で争わなくてはいけないケースが多いです。

一般企業への就職の場合は、社会人経験がなく、博士号を持つ人に対して、扱いにくいといった偏見が残っている場合もあります。なかには研究職での採用であっても、OBから「博士号を取ると推薦するのが難しくなるので、取得せずに入社して、入社後に取得してほしい」と言われた人もいました。

ほとんどの人が担当教官をはじめとした人的ネットワークをいかして就活する人が多いですが、自分で動く場合は、学部卒などと同様に博士課程修了者に対して広く募集をしている企業や公務員試験を受けていました。

ちなみに、女性が任期付きの職に応募する場合、妊娠出産は課題になりがちです。たとえ制度は整っていても、限られた期間での雇用ですから、現実問題取得できるのかは、あらかじめ調べておきたいですね

理系大学院生の強み

大学院で行ってきた専門的な研究分野こそが自分の最大の強みだと思っていると、就活はうまくいかないかもしれません。大学院で学んだ知識がそのまま直結する就職先は、非常に限られています。たとえ研究職であっても、大学の基礎研究と企業が行う利益を意識した研究は、手法や判断基準などが異なるでしょう。

大学院生の一番の強みは、研究を行う上で培われた、論理的な思考能力、プレゼン力、文章を作成するスキル、調査能力といった基礎的な能力が高い点。また研究は受け身では進められないので、自主性や自己管理能力が高い人も多い印象です。

どんな仕事であっても、正解が分からないことが起こります。そういったときに、解決するプロセスを身に付けている大学院生は強いです。それに加えて、周りにしっかりと論理的に説明できるプレゼン力も持ち合わせていますので、チームを引っ張る存在として期待されるでしょう。

推薦応募とは

理系の大学院生が就活を行う上で押さえておきたいのが「推薦応募」。一般応募の場合は自ら企業を探し応募しますが、推薦応募の場合は企業から大学の学部、学科、専攻に何人ほしいという要望が届きます。希望者が多い場合は学内で調整が行われ、大学によっては学部生よりも大学院生を優先するところもあります。採用試験自体は、一般採用と比較して簡素化されていることも多いです。また一般に、推薦応募の方が合格しやすいと言われています。

企業によっては、事前にOBが大学を訪問し、説明会や懇親会を行うケースもあります。こういった活動の場が選考に影響するかどうかは、企業によって異なりますが、学生にとってはアピール場になりますね。

推薦応募のメリット・デメリット

メリット

大きなメリットは、合格しやすい点。そして、採用試験が簡素化されている場合、時間的な拘束が短いのは嬉しいポイントでしょう。毎年採用されている企業の場合は、学内に採用ノウハウが残っていることもあります。

デメリット

推薦応募は、基本的に合格したら入社しなければいけません。明確な決まりがない場合も、大学と企業との信頼関係の上で成り立っている制度なので、辞退をすると次年度以降に影響が出る場合もあります。

合格率が高いとはいえ、不採用になることもあります。前述した通り、推薦応募は基本的に辞退できないので、結果が出るまで他の推薦応募をもらうことが難しく、不採用になると出遅れてしまう可能性があります。筆者の先輩は首席だったにもかかわらず推薦応募で不採用になりました。先生方も「次年度以降は、うちの学生はやらない!」と激怒するほどで、予想外の出来事だったようです。

推薦応募は学内からの推薦人数が決まっているため、希望者が多いと学内で選抜が行われます。一般採用で見ず知らずの人と争うのと違い、友達同士で競わないといけないケースもあり、学内専攻は精神的に大変です。

理系院生で文系職種に応募するときの注意点・ポイント

理系の大学院に進学したからといって、理系職種に就職しなくてはいけないということはありません。文系職種にチャレンジできる可能性は大いにあります。志望動機を明確にして、入社後どういう面で役に立てるか、しっかりとアピールできるように準備をしておきましょう。

また文系職種の場合、大学院じたいに馴染みのない企業もありますし、理系の大学院卒というだけで敬遠する企業もあります。希望する企業がある場合は、比較的時間を取りやすい1年生のうちにインターンシップなどに参加して、少しでも関係を作っておくといいでしょう。

理系の大学院進学まで考えている高校生へ

今回シビアな話を多数ご紹介しましたが、決して大学院進学を勧めないという意味ではありません。筆者は、修士課程、博士課程と進学して良かったと思っています。

ただし、なんとなく進学するというのは避けた方がいいでしょう。将来のキャリアプランを持ったうえで、どこの大学・大学院に進学するといいのか検討しておきたいですね。

ちなみに地方の私立大学から、旧帝大の大学院に進学し、博士号を取得後、母校の大学で教鞭をとっている方もいらっしゃいます。今は、大学進学のことで頭がいっぱいかもしれませんが、オープンキャンパスなどにも積極的に出掛けて行き、大学卒業後の進路についても直接話を聞いてみるといいでしょう。インターネットでは知り得ない生の声は、今後の進路選択に大いに役立つはずです。

久留米工業大学の大学院

  • エネルギーシステム工学専攻

http://www.kurume-it.ac.jp/gakubu/energy_shokai.html

  • 電子情報システム工学専攻

http://www.kurume-it.ac.jp/gakubu/denshi_shokai.html

  • 自動車システム工学専攻

http://www.kurume-it.ac.jp/gakubu/jidosha_shokai.html