航空宇宙工学とはどのようなことを学ぶ?航空宇宙工学の基本から卒業後の進路までをご紹介

工学に興味のある皆さんの中には、今までに一度は「飛行機やロケットなどの空飛ぶ最先端技術に携わってみたい」と思った事のある方も多いのではないでしょうか。

でも、「航空宇宙工学」と聞いたところで、「航空宇宙工学とはどのような勉強をするのか」や「将来、航空宇宙分野にはどのような就職先があるのか」など、具体的な部分がイマイチ分からないと感じている方も少なくないかもしれません。

実際、大学で航空宇宙工学を専攻した私自身も、当時そのように感じていた高校生の一人でした。そんな私が自らの経験を交えながら航空宇宙工学とは何かを伝えられればと思います。

航空宇宙工学とは

航空宇宙工学は、一言で表すと、「空飛ぶ最先端技術を支える学問」です。

航空宇宙工学とはどのような学問?

航空宇宙工学とは、その名の通り、航空工学と宇宙工学の両方を兼ね備えた学問です。元々は、航空工学として航空機の設計や製造、そして製造された物の運用と整備に関して学ぶという学問でしたが、科学技術の発展に伴い、徐々に航空工学で培われた技術・知識が宇宙開発に応用されるようになり、現在では一般的に航空宇宙工学と呼ばれるようになりました。

航空宇宙工学ではどんなことを勉強する?

空飛ぶ機械に関する知識と技術

ロケットエンジンや航空機のジェットエンジンから、宇宙探査機の軌道や制御、更には最近なにかとよく耳にするドローンやミサイルのシステム設計など、空飛ぶ機械にまつわる、ありとあらゆる最先端技術が航空宇宙工学の研究領域です。

つまり簡単に言うと、航空宇宙工学では、機械を飛ばすために必要な沢山の知識と技術を習得することを目指すこととなります。

工学の基礎

上記のような最先端技術に関する科目は通常、上級生になってから選択することになりますが、そのためにはまず、大学1・2年時に工学の基礎を習得する必要があります。

その基礎の一例として挙げられるのが力学です。力学とは物体に働く力に関する学問の総称で、高校物理で皆さんが習っている「運動とエネルギー」も「機械力学」という力学の一部分です。それに加えて大学では、与えられた力に対して物体がどのように変形するかを考える「材料力学」、与えられた熱に対して物体がどのような反応をするのかを考える「熱力学」、そして空気や水がどのように流れるか、それらが物体にどのような力を働くかを考える「流体力学」など、様々な力学を勉強していきます。

これらを勉強することによって、例えば、ジェットエンジンがどのような原理で推進し、エンジン内の高熱・高圧力にはどのような素材を使用するべきかなどを理解することができるようになるのです!

CAD

もちろん、工学の基礎は力学のような理論だけではなく、機械の設計・製造をする上で必要なツールについても学ぶことができます。

例えば、コンピュータ上で設計を行うツールはCADと呼ばれ、設計作業を正確かつ短時間で行えるだけではなく、そこで制作されたCADモデルは、開発初期段階で別のツールを用いてシミュレーションなどを行えるため、製造工程を大幅に効率化してきました。

CADは機能が多いので慣れるまで少し苦労しますが、一旦慣れてしまえば、まるで絵を描く感覚で、美しい三次元モデルを“わりと”簡単に制作できるので、将来的にとても役に立つスキルです!

航空宇宙工学の将来性

航空宇宙分野は今後も発展し続けると言われています。

航空分野

まず航空分野に関してですが、エアバス社の市場予測「グローバル・マーケット・フォーキャスト」の2017年度版によると、ここ十年間で、民間旅客機の年間交通量が60%も上昇したことが分かっています。これは、飛行機を利用する人々が年々増加し続けていることを示していて、同社はこれによる市場拡大のため2036年までに新たに約3万5千もの旅客機の需要があるだろうとも予想しています。

宇宙分野

そして、宇宙分野の今後の成長には疑いの余地がありません。宇宙探査機の開発範囲は、物凄いスピードで広がっており、例えばNASAの火星探査機ローバー「キュリオシティ」は2012年の到着以来、将来可能となるであろう火星への有人飛行のため、火星での生命保持の可能性の調査や気候・地質のデータ収集を行っています。

また、国内では2010年小惑星イトカワから帰還した「はやぶさ」の後継機「はやぶさ2」が2014年にJAXAによって打ち上げられ2018年に小惑星リュウグウに到着する予定です。更に、宇宙開発には近年、民間企業も続々と参入していて、将来的に、宇宙飛行がより身近なものになるとも予測されています。

つまり、宇宙航空分野の発展に伴い、今後それをまかなうための“人手”が必要となってくるわけです!

航空宇宙工学を学んだ後の進路

航空宇宙工学を学んだ後には、豊富な選択肢の進路があります。

修士課程(大学院)への進学

航空宇宙分野の進路を紹介する上でまず注目したいのが、航空宇宙工学専攻する学部生が、どの大学も軒並み高い比率で修士課程に進学しているということです。大学在学中に勉強した最先端技術を、大学院に進学して自ら研究するという学生が多いようですね。

航空宇宙産業への就職

そして、航空宇宙工学の卒業生の多くは、習得した専門性高い知識を活かし、航空宇宙産業へと就職します。大学によって就職先の業種の割合は様々ですが、航空機・宇宙機(ロケットや人工衛星)の基礎研究や運用を行なう、宇宙航空開発研究機構(JAXA)などの研究機関、航空機・宇宙機の設計製造を行なう重工業、そしてパイロットや航空整備士を含めた航空運送業が主なところでしょうか。

自動車・電機メーカー

また、上述のとおり航空宇宙工学では専門的知識を学ぶ前に、まず工学の基礎をしっかりと勉強することから、習得した知識は分野以外の機械製造業にも通じるため、自動車・電機メーカーに就職する卒業生も少なくありません。

上記以外の産業に就職する卒業生も相当数いることから、航空宇宙工学を学んだ後は選択肢の豊富な進路が待っていると言ってよいでしょう。

航空宇宙工学を学んだら就ける職業

航空機の設計・製造

航空機の設計・製造は民間の重工業が担っています。航空分野ではある特定の一社が航空機一機を全て製造することはなく、各方面に特化した企業が部品を供給しあうことによって、一つの巨大なプロジェクトを完成させていきます。

「ボーイング787」を例に挙げてみると、組み立ては米・ボーイングですが、機体の35%は三菱重工(主翼担当)・川崎重工(降着装置・胴体担当)・富士重工(中央翼担当)の日本企業によって製造されました。また、エンジンのシャフトはIHI、機体重量の50%に使用された炭素繊維複合材は東レが供給をしています。

宇宙機の設計・製造

宇宙機の場合は、日本の宇宙開発の中心を担うJAXAと民間の重工業が手を組んで開発を行います。「はやぶさ」を例に挙げてみると、全体のとりまとめ役はNECが担当し、同社はイオンエンジンの供給もしました。位置計測技術は富士通、地上のアンテナ系は三菱電機、サンプル採取技術は住友重機械工業などが担当していて、全体的に電気系統に強い企業が多いように見受けられます。

宇宙機の運用

ロケットの打ち上げから人工衛星の制御までに、宇宙機の運用には沢山の人々が携わります。例えば、ロケットの打ち上げの現場だけをみても、ロケット発射指揮・設備班・射場班・気象班など業務は細分化されていて、沢山の航空宇宙エンジニアが活躍しています。

基礎研究

最先端技術を研究します。一例としてJAXAの航空技術研究部門では、より安全な操縦システムや、騒音を低減しより快適なフライトを目指す次世代型航空機の研究を行なっています。その他にも、コンコルド以来の超音速旅客機の開発も米国を中心に徐々に行なわれていたりと、基礎研究は航空宇宙の未来を支えていると言えます。

その他(パイロット・航空整備士)

基本的に工学では設計開発について勉強するため、パイロットや航空整備士のような航空運送業の業種に就職したい場合は、それぞれの育成に特化した専用機関に通うのが近道のようです。(パイロットでは航空大学、航空整備士では国の指定を受けた航空専門学校がそれにあたります。)

しかしながら、宇宙航空工学で学ぶ知識は、これらの業種にも必要とされるため、航空会社が募集する自社養成パイロット」や総合職技術職の採用試験に有利に働く場合もあります。

航空宇宙工学は、どのような人が向いている?

理系分野への興味

上述の通り、航空宇宙工学では空飛ぶ最先端技術に関して学ぶために、ある程度、理論的な基盤が必要となってくるため、理系科目(特に数学と物理)に自信のある方が向いているでしょう。そして、航空宇宙分野の研究開発の最前線では前例の無いものを造りあげていくため、発想力や探究心、なども必要な素質になってくるでしょう。

コミュニケーション能力

また、これはどの工学分野にも通じて言えることですが、研究開発には色々な分野から沢山の人々が関わるので、コミュニケーション能力も大変重要となります。「自分は人付き合いが上手かも!」と思った方はもしかしたらエンジニアとしての才能があるかもしれません!

航空宇宙分野への興味

そして一番は「航空宇宙分野に興味がある」です。やはり「興味がある」ものであれば、多少勉強量が多くても、自然と努力できるものです。私自身も当時、数学・物理ともにそれ程得意ではなかったものの、「宇宙に興味がある」と、いたってシンプルな理由で航空宇宙工学専攻した身なので、そこはお約束できます!

航空宇宙工学に興味のある方へ

航空宇宙工学は、将来、航空や宇宙開発の最先端に携われることができるかもしれない、夢のある学問です。また、航空宇宙分野は成長著しい分野である一方、そこで習得した知識や技術は他の分野への汎用性も高いため、将来性も大いにあると言えます。

最後に、「興味はあるけど、やっぱり難しそうで不安・・・。」という方はご安心を!航空宇宙分野に興味さえあればなんとかなります!

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