大学入試の試験科目にプログラミング?情報科目が追加される背景とこれから求められる人材とは

新聞等で大きく取り上げられているのでご存知の方も多いと思いますが、現在、高校教育、大学教育を含め、大学入試全体の改革が進んでいます。大学入試の象徴でもあった「センター試験」は2020年の実施を最後に廃止。そして新たに「大学入学共通テスト」が導入されることが決まっています。

大学入学共通テストでは、思考力・判断力・表現力が重視されます。具体的な内容についても徐々に明らかになってきており、1年ほど前の2018年5月17日に政府が開催した未来投資会議では、この大学入学共通テストにプログラミングなどの情報科目を導入する方針が確認されました。

「プログラミング?」と一見すると難しそうな話が出てきて、戸惑いを隠せない方も少なくないでしょう。そこで、今回は情報科目が導入される経緯と我が国で何が求められているのかを解説します。

大学入学共通テストにプログラミングなどの情報科目を導入

未来投資会議の議長を務める安倍首相は、「AIやビッグデータなどのIT、情報処理の素養はこれからの時代の『読み書きそろばん』」だと述べています。文系・理系を問わず学習を促すとのこと。どちらかと言うと、おまけ的なポジションだった「情報」が、大学入試では国語や数学、英語といった基礎科目として追加される方針です。

何も突然、大学入試だけが変わるわけではありません。小学校、中学校、高校の教育も変わります。この決定に至った背景にあるのは、国の将来に対する強い危機感です。センター試験が始まった当初と今では大きく時代が変わっています。インターネットが普及し、ほとんどの方が携帯電話を持つようになりました。ITの発達により、新たな職業が生まれ、社会のあり方までもが変わってきています。

ITの話は、理系の専門家のみが知っていればいいという時代は終わりました。安倍首相が述べているように「読み書きそろばん」、つまり誰もが基礎的な知識を得て、ICTを活用できるだけの能力が必要になってきているのです。

未来投資戦略2018とは

大学入学共通テストに情報科目が導入されることになった経緯をもう少し詳しく見ていきましょう。

平成30年6月15日に閣議決定されたのが「未来投資戦略2018 」です。IoT、ビッグデータ、人口知能(AI)、ロボットといった先端技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れることで、経済発展と社会的課題の解決を両立していく新たな社会を実現します。この発展を第四次産業革命と呼び、実現が想定される新たな社会のことを「Society 5.0(ソサエティ5.0)」と呼んでいます。ちなみに、Society1.0が狩猟社会、Society2.0が農耕社会、Society3.0が工業社会、Society4.0が情報社会です。Society5.0は超スマート社会とも言われます。

未来投資戦略では、デジタル新時代が進む世界の動向と日本の立ち位置を明確化。そして「Society5.0」によってどう変わっていくのか具体的な姿が示されました。21世紀の「データ駆動型社会」では、経済活動の最も重要な糧が、良質、最新で豊富なリアルデータになるとしています。今後の推進体制とスケジュール、具体的な取り組みについてもまとめられています。途中で難しい用語なども出てきますが、一読されると理解が進むでしょう。

「Society 5.0」で私たちの生活はどう変わる?

まず初めに、私たちの暮らしがどう変わるのか、政府が分かりやすい動画を公開していますので、ご覧ください。

必要なものが、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供される世の中が「Society 5.0」と言ってもいいでしょう。それを実現するために活用されるのが、IoTやAIといった新技術です。

ひと昔前まではパソコンを持っていなければITとは無縁と考える人がいました。でも今の時代、家電製品にはプログラムが組み込まれ、お金の支払いもICカードやクレジットカードなどIT技術によって支えられています。この傾向は、ますます進むことでしょう。

そうなったときに課題になるのが、AIなどを使いこなせるIT人材の不足。そこで政府が人材の育成を急いでいるのです。

AI時代に求められる人材の育成・活用

これまでの時代は、同質の物を大量生産することが求められていました。一方で「Society5.0」の時代になると、AIとデータ利用により個別生産にビジネスがシフトします。そこで求められるようになるのが、AIやデータを理解し、使いこなす力。そしてAIでは代替できない価値創造を行える人材です。

こうした人材を育成するために、あらゆる施策を実施。大学入試改革や小学校から大学までの統計・情報教育等の強化により、理数の能力をさらに高め、大学等では学部・学科といった縦割りを超え、横断的かつ実践的な教育課程の構築を実現します。

また国際的にIT人材が求められており、争奪戦が起きているのが現状です。その中で日本企業は遅れをとっており、優秀な人材の流出が進んでいます。そこで優秀な人材の処遇改善を促し、産業界等の人材活用を質・量の両面で拡大するとしています。

小中高で行われる「プログラミング教育」とは

2020年度から全ての小学校でプログラミング教育がスタート。プログラミング的思考を学び、主体的に活用する態度を育みます。プログラミング教育と聞くと、プログラミング言語を用いてプログラムを記述することをイメージするかもしれませんが、重きが置かれているのは「プログラミング的思考」です。課題を解決するためには、どうしたらいいのか考え、それを実現するために、どんな順番でどのように処理していくのかを考えます。プログラミングは単独の科目としてではなく、算数や理科といった既存の科目の中で学習します。

中学校になると、「技術・家庭科」の技術分野が拡充され、技術的な側面にも触れることが求められるようになります。2021年度から始まる新学習指導要領には、「動作の確認」「デバッグ」「結果の評価」「改善」などの表現が使われ、より実践的な技術の習得が求められていることが分かります。ただし、ここでの教育も、専門家を育てるものではありません。現代社会で使われている技術を実際に使ってみて、理解を深めることが目的です。

高校では2022年度から「情報Ⅰ」としてプログラミングに関する授業が必須科目になり、選択科目として「情報Ⅱ」が用意されます。気象データのオープンデータをAPIで取り込むといった例などが示されており、より高度な内容になるのは間違いないでしょう。

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これから大学入試を迎える皆さんへ

2019年度初頭には「大学入学共通テスト」実施大綱の策定・公表が予定されています。現時点では、分からないことも多く、不安も大きいことと思いますが、日々学習した内容に基づき、テストが行われる点は変わりません。政府の動きを新聞やネットニュースで把握しつつも、まずは目の前の学習に集中するといいでしょう。情報の中には、正確なものもあれば、間違った情報もあります。信頼できる情報か気を付けたいですね。