「自動車のお医者さん」とも言われる自動車整備士。
将来車に携わる仕事がしたい方は、自動車整備士資格の取得も考えていると思いますが、自動車整備士には一級~三級という違いがあります。
資格によって携わることができる仕事内容が違うのはもちろん、将来どういった目標を持っているかによっても取得すべき資格は変わってくることになります。
そこで、まずはそれぞれの資格の違いや特徴を知り、自分に合った整備士資格の取得を目指すようにしましょう。
自動車整備士資格とは?
自動車整備士と言っても、実際には一級~三級までいくつかの種類に分かれており、持っている資格の種類によって、資格取得後に携われる業務の内容はもちろん、将来のキャリアアップにも大きく影響してきます。
また、それぞれの資格を取得するための試験内容や、受験資格などにも違いがあるため、まずは自動車整備士の種類と、特徴などをよく理解しておくようにしましょう。
一級自動車整備士
平成14年に初めて資格試験が実施され、正式に一級自動車整備士が誕生しました。
正式な種類は、一級大型自動車整備士と一級小型自動車整備士の2種類で、二輪に関してはまだ試験が実施されていません。検査業務を除くすべての業務に携わることができ、もちろん自動車検査員の受験資格に必要な要件にもなります。
現在では二級以上の資格があればほぼすべての業務に携わることができますが、一級自動車整備士は、ハイブリッドや電気自動車、水素など多様化する自動車に対応しつつ、安全管理や環境問題など、二級よりもさらに踏み込んだ法令などの知識が必要です。
動力の種類の多様化だけではなく、自動運転や予防安全技術の進歩など、今後さらに技術革新が進むと予想されるこれからの自動車業界においては、取っておいて損の無い資格であることは間違いありません。
二級自動車整備士
二級自動車整備士の種類は、二級シャシ、二級ガソリンエンジン、二級ディーゼルエンジン、二級二輪の4種類があります。
現在の自動車業界において、二級以上の自動車整備士資格を持っていれば、ほぼすべての業務に携わることができ、検査業務(車検)を行うことができる自動車検査員資格の取得に必要な条件の一つです。
平成14年に一級自動車整備士の試験が実施されるまでは、二級整備士が実質最上級の資格であったため、現在実際の整備工場で働く多くの先輩自動車整備士は、一級ではなく二級自動車整備士であることがほとんどでしょう。
学校に通い自動車整備士資格の取得を目指せる環境であるならば、二級以上の資格取得をオススメします。
三級自動車整備士
大学や専門学校などに通わず、無資格の状態で仕事をしながら整備士資格取得を目指す場合、最初に取得するのが三級の整備士自動車整備士です。
種類は三級シャシ、三級ガソリンエンジン、三級ディーゼルエンジン、三級二輪などに分かれ、実際に携われる業務内容は、基本的な点検業務やカー用品の取付けといった簡単な作業が中心になります。エンジンや足回り、トランスミッションの分解といった、自動車の安全に直結するような比較的大掛かりな整備作業は行うことができません。
そのため、三級取得後にさらに実務経験を積み、二級整備士を目指す方がほとんどで、これから大学や専門学校への進学を考えている方には縁の無い資格とも言えます。
自動車整備士の仕事内容は?
皆さんは自動車整備士資格を取得したのち、どのような仕事をしたいと考えているでしょうか?
ここからは、自動車整備士が実際の職場でどのような仕事をしており、また、どういった会社に就職しているのかについてご紹介していきます。
整備士の仕事内容
自動車整備士の仕事と言っても、その業務内容は多岐に渡りますが、整備士資格を持っていなくてはできない業務としては、大きく分けて点検、分解整備、検査の3つに分けることができます。
ここから、整備士が実際に携わる業務をご紹介していきましょう。
点検業務
点検はディーラーなどで行う6カ月点検や、12カ月、24カ月の法定点検で、ディーラーなどに整備工場に就職した場合、最初に覚えなければいけない業務です。
分解整備業務
次に分解整備ですが、ここがもっとも整備士らしい仕事と言える範囲で、症状に合わせた故障探求や整備内容の選定、実際の分解整備作業までを含みます。
検査業務
最後に検査業務となりますが、これはいわゆる車検や、分解整備後の完成検査を指し、整備主任者や自動車検査員など、工場選任の資格が必要です。
その他の業務
また、極まれなケースとしては、大学や専門学校で整備士資格を取得後、研究員やテストドライバー、または試験車専属の整備士として、自動車メーカーやパーツメーカーなどに勤務するケースもあります。
就職先・職場
自動車整備士資格を持っている場合の就職先としてもっとも多いのは、いわゆる新車ディーラーで、次に多いのは、一般の整備工場や車検専門店となります。
また、先述した通り、自動車メーカーやパーツメーカーなどに就職しているケースも、数は少ないですが見受けられますが、そのためには専門学校よりも、自動車整備以外の知識を学んでいる工業系大学出身である方が若干有利になる可能性があります。
自動車整備士の資格を取るために必要な事は?
ここからは、実際に自動車整備士になるためにはどういった方法があるのかについて解説していきます。
実務経験のみで目指す
全く資格を持たない状態から取得を目指すことは可能ですが、整備工場などでの実務経験を1年以上積んだのちにまずは三級の取得を目指すことになります。
さらに上級の資格を取得するためには実務経験が必要で、三級取得後早くても、二級は3年、一級に関してはさらに3年という時間を要します。
また、実際に日々の業務を行いながら勉強をしなくてはなりませんので、相当の努力と忍耐が必要になり、試験は学科試験のほかに実技試験を受けなければなりません。
養成学校・専門学校に通って自動車整備士へ
働きながら勉強することに比べ、養成学校・専門学校に通えば、実務経験と実技試験が免除されるため、圧倒的に整備士資格取得への近道と言えるでしょう。
二級整備士コースは2年、一級整備士コースは4年間ですので、将来どういった整備士になりたいのかということを見据えて選択することができます。
ただし、職業訓練校などの養成学校の中には、卒業しても二級の受験資格が得られない場合がありますので注意が必要です。
大学に行く
専門学校などと同じく、二級整備士課程を受けることができるため、それぞれ卒業と同時に受験資格を得ることができ、実技試験も免除されます。
専門学校との大きな違いは、大学卒となれば学士の称号を取得することができるということです。(専門学校卒は高度専門士となります。)
将来、現場の整備士以外に、開発や研究、または経営などへのキャリアアップを目指すのであれば、大学卒で得られる学士の称号や知識は大きな武器になるでしょう。
自動車整備士の実務経験と受験資格
自動車整備士の試験を受けるためには、それぞれの級により必要な実務経験が無ければ、受験資格を得ることすらできません。
全くの無資格から、二級整備士の受験資格を得るまでには最短で4年、さらに一級整備士の場合は最短で7年という実務経験が必要です。
整備士の仕事は、現場での経験が一番ものを言う仕事ですので、できるだけ早く上級の資格を取得し、現場での実務を経験することが大切です。
したがって、自動車整備士になるための最短ルートである大学や専門学校に通い、一級や二級の受験資格を取ることをオススメします。
自動車整備士の試験と合格率は?
自動車整備士は国家資格であるため、難しい試験を受けねばならず、狭き門なのではないかと心配している方もいると思いますので、それぞれの級ごとの合格率についてご紹介していきましょう。
三級自動車整備士
学科試験の合格率は50~60%であり、二級に比べて合格率が低いのは、学校などを出ていない一般の受験生も多く含まれているためです。
二級自動車整備士
学科試験の合格率は70~80%ですが、一般受験者が少ない試験日だけで見ると、85~90%の合格率になり、大学や専門学校を出た受験者の合格率が高いことがわかります。
一級自動車整備士
最上級の資格であるため、学科試験の合格率は20~30%と非常に低く見えますが、これは三級以上に一般受験者が多いことが大きく関係し、大学や専門学校を卒業後では、65~75%程度の合格率になります。
自動車整備士の将来性は?
1980年代までは、整備士というのは職人であり、ディーラーや町の整備工場で経験を積んだのちに独立するというのが当たり前という感覚でした。
しかし、自動車業界が一定の成長を果たした現代においては、0から新規参入して整備工場を始めるには、資金面や設備面などかなり高いハードルをいくつも越えなくてはなりません。
もちろん、経験と努力を重ね、独立を果たしている先輩整備士も実際に存在しますが、全ての整備士が独立開業を目指すには、あまりにも狭き門なのです。
では、これからの自動車整備が目指す将来にはいったいどのような道があるのでしょうか?
最新車種を扱える整備士を目指す
これからの整備士が目指すべきセカンドキャリアの一つ目は、時代の最先端技術に触れ、高度な整備技術を扱う専門部署や、専門工場へのステップアップです。
ハイブリットやEVなど、今までの内燃機関(エンジン)ではない動力を持った車が市販され、さらには被害軽減ブレーキや自動運転などの最新技術によって安全が担保される時代になりました。
そのため、基本的なエンジンやサスペンションの整備はもちろんのこと、自動ブレーキや自動運転が正常に機能するよう、点検や整備作業を行う必要があります。
すでに整備工場の中でも、最新技術を扱える工場とそうでない工場に分かれてきていますので、整備士にもこれまで以上の知識と経験が必要とされることになるのです。
他業種へのキャリアチェンジ
最新のコンピューターや機械工学に精通した整備士は、整備工場以外にも部品メーカーでの設計や、産業機械のメンテナンスといったキャリアチェンジも可能です。
その他にも、損害保険のアジャスターや、整備士を養成する学校や養成所の講師に転身するなど、基本的な工学の知識や、機械系に強いということが強みになり、十分に次のステップへ進むことができるでしょう。
自動車整備士に向いている人・適正
これからの将来を考えた際、自分にはどんな仕事が向いているのか、自分は整備としてやっていけるのかと不安に思っている方も少なくないでしょう。
ここからは、自動車整備士に向いている人はどういった人なのか、また、どういった適正が必要なのかについてお話していきます。
車が好きであること
自動車整備士に必要な適正は何かと聞かれると、まずは車が何よりも好きであるということです。
どんな仕事でも同じですが、就職して1~2年は自分のやりたい仕事ができるとは限らず、いわゆる下積みのように、ときにはやりたくない仕事もしなくてはならないこともあるでしょう。
しかし、どんなに優秀な整備士でも、最初からやりたいことができていたわけではなく、1年後や2年後、一人前の整備士として大好きな車の整備をしたいという思いで頑張っているのです。
探求心と好奇心
自動車整備士は、ときに職人のような集中力と発想力を持って、難解な故障や整備作業に立ち向かわなければなりません。
「なぜだろう?」と常探求心と好奇心を持ち続けていることが、整備士として成長するための糧になるのです。
コミュニケーション能力
故障を迅速かつ的確に特定するためには、ユーザーからさまざまなヒントを聞きださなければなりません。
「自動車のお医者さん」とも言われる整備士は、ユーザーとコミュニケーションを取ることで、一見すると直接関係のなさそうな会話から、不具合の原因を探るヒントを得ることが必要です。
今はあまり他人と話すことが苦手と思っている人でも、言葉をしゃべることの無い車に代わって、ユーザーが感じている違和感や訴えを事細かに聞き取ることを意識していれば、自然とコミュニケーション能力を身につけてることができます。
自動車整備士のやりがいと苦労
インターネットなどを見ていると、「自動車整備士は危険、汚い、キツイの3Kだ」という内容を目にしますが、実際に整備士として勤務していた私自身は、そういったネガティブな印象を持ったことがありません。
きちんとした設備と安全管理を徹底すれば危険性は高くありませんし、整備機器進歩や職場環境の改善によりあまり汚れるといったことは少ないでしょう。
また、どんな仕事でも楽な仕事などは無く、何よりも本当に車が好きな車に触れていることで、キツイと思われがちな仕事でも苦になりません。
自動車という存在は、近年の日本において、東京23区などのごく限られた地域を除き、足の不自由な年配の方から普段の買い物など、人々の生活に無くてはならない社会インフラの一部と言っても良いでしょう。
つまり、そんな自動車が故障してしまうと、その人の生活に支障が出てしまうばかりか、渋滞や交通事故の原因となってしまうかもしれません。
自動車整備士は、人々の生活基盤を支えるためには無くてはならない存在であり、自分の腕で誰かの役に立つことができる職業なのです。
自動車整備士として働いた体験から
これから整備士を目指そうとしているのであれば、専門学校や大学に通うべきか悩むとことでしょう。
約15年間整備士として整備工場にいた経験からお話すると、大学卒であろうと専門学校卒であろうと、整備の現場で出身校がどこかということは関係ありません。
整備士として成長するためには、多くの作業をこなし、さまざまな症状に出会い、不具合を解決していくという経験を積む以外に無いのです。
では何を基準に進学先を選ぶべきなのかと言えば、プラスαの付加価値を身につけることができかどうかで選択するべきでしょう。
整備士は体力を使う仕事であるため、生涯現役を貫くことができる整備士はごく僅かで、ディーラーであれば営業職やサービスフロントとして勤務しています。
そのままディーラーや一般の整備工場で定年まで勤め上げるのも良いですし、整備士経験を活かして、キャリアチェンジを選択するというのも良い選択でしょう。
どちらの道を選択するにしても、大切なことはどれだけの経験と知識を持ち、さらに、人間として社会人として魅力を持っているのかということになります。
そのため、整備士資格だけではなく幅広い知識を学び、学士の称号を得ることができる大学への進学は、将来の可能性を大きく広げてくれる選択肢なのです。