「理系の大学に進学すれば、資格がなくてもやりたい仕事には就けそうだから資格はいらないのでは?」このように思っている人は多いのではないでしょうか。
その一方で、「理系に進学しても資格は取っておいて損はない。取っておくのが有利。」という声もよく耳にしませんか?本当のところはどうなのでしょうか?
理系に進学しても資格を取ることの重要性
資格が必要な職業とそうでない職業
世の中には、資格がないと就けない仕事があります。
例えば、医師になるためには医師免許の資格が必要です。家を建てるためには、建築士の資格が必要です。先生になるためには、教員免許が必要です。具体的に将来就きたい仕事がある人は、自分の仕事に資格が必要なのかどうか確認し、必要であれば資格を取りましょう。
では、自分が就きたい仕事に就く上で、必ずしも資格を取る必要がない人にとって、資格というものは重要なのでしょうか?
資格の重要性
例えば、同じくらい実力があって魅力的な人が二人いたとします。でも一人はあなたが依頼する仕事に関する資格があって、もう一人には資格がありません。あなたはどちらの人を選びますか?ほとんどの人が資格がある人を選ぶのではないでしょうか。
確かに生きて行く上では、「実力」や「人格」がとても大事です。資格を取るということは、一定以上の水準でその分野を勉強していて、かつ、一定以上の知識を持っているという証明になります。
ですから、資格は「あなたが一定以上の実力があって、しかもやる気がある人なんだよ」と口添えしてくれる第三者のお墨付きのようなものなのです。就職、転職などでも信頼を得る上で有利に働く要素のひとつと言えるでしょう。
資格を取得するメリット
更に、資格にはメリットがいくつかあります。会社によっては資格を持っている人に対して給料を上げてくれたり、手当をくれたりするところがあります。
また、資格を取るために勉強することでより深い知識を得ることができるので、自分を磨く・スキルアップするための目標や手段としてもとても良いものと言えるでしょう。
理系の資格を選ぶ際の注意点
仕事内容・職場をイメージする
せっかく資格をとっても、それを活かさなければ意味がありません。
ざっくりで良いので、自分がどのような仕事がしたいか、どのような職場で働きたいかをイメージしてみましょう。そして、自分のイメージに合った分野にどのような資格があるか調べてみましょう。
取得難易度を把握する
世の中には、資格が1,600以上もあると言われています。また、欲しい資格を取るために満たさなければならない条件があることもしばしばで、難易度も様々です。試験内容、難易度、受験条件等をよく調べて把握することが重要です。
そのうえで計画を立て、自分が合格に向かって努力できる範囲かどうか考えてみると良いでしょう。また、受験資格を得るためには様々な道が用意されており、特定の学校を卒業すると、実技試験をパスできたり、いきなり上級の資格から受験できるようになる場合もあります。
理系国家資格の紹介
そもそも国家資格とは
資格は大きく分けて3種類あります。国家資格、公的資格、民間資格です。あなたには資格がありますよ、と保証してくれる機関や組織が何かによって分別されています。なかでも、国家資格は国家(=日本)が認定する資格で、難易度も高いとされています。その代わり、法律的に認められている資格で、社会的な信頼度が一番高く、合格するメリットも大きい資格と言えるでしょう。
また、国家資格には特権があります。国家資格に合格した人しか携われない仕事があったり(業務独占資格)、肩書(呼び方)があったり(名称独占資格)、国家資格を持っている人が1人以上いないと行ってはいけない業務が(必置資格)あったりします。
例えば、医師免許をもっている人のみが病院で診断ができます。気象予報士の資格をもっている人のみが「気象予報士の〇〇です。」とお天気ニュースで名乗ることができます。管理栄養士の資格をもっている人がチームにいないと、給食の献立を決めてはいけない、といったことがあります。
理系の国家資格
理系の国家資格の特徴や資格・試験の概要などをいくつか例にしてご紹介させていただきます。
ITパスポート試験
●資格概要
ITを利活用するすべての社会人・学生が備えておくべきITに関する基礎的な知識が証明できる国家試験です。
具体的には、経営戦略、マーケティング、財務、法務など経営全般に関する知識をはじめ、セキュリティ、ネットワークなどのITの知識、プロジェクトマネジメントの知識など幅広い分野の総合的知識を問う試験です。ITを正しく理解し、業務に効果的にITを利活用することのできる“IT力”が身につきます。
また、情報処理技術者試験の試験の1つで、最も基礎的なレベル1に位置づけられています。ITパスポート試験を足がかりに、Lv2の試験に取り組むことも視野に入れることができます。
●試験内容と難易度(難易度:低)
コンピュータに表示された試験問題に対して、マウスやキーボードを用いて解答します。小問が100出題され、
- ストラテジ系(経営全般):35問程度
- マネジメント系(IT管理):20問程度
- テクノロジ系(IT技術):45問程度
で構成されています。それぞれの分野で300/1000点以上を取り、かつ、総合評価点でおよそ60%の正答が合格基準です。
●取得するには
資格条件なしで誰でも受験できます。合格するには、ひたすら勉強あるのみです!勉強が苦手な人は、学校に通いながら友達を作って一緒に勉強すると効果的です。
●取得後の仕事内容・職場
IT技術を使用しない企業はほとんどないと言っても過言ではありませんので、どんな職業・職場でも役に立つ資格といえます。ITを中心として、これからの社会人としての一般的な知識を幅広く問う試験ですので、企業からの視点では、「コンピューターに苦手意識がない。コンプライアンスや財務知識に対する意識が高い人物」といった評価につながります。スマホしかまともに触ったことがなくコンピュータのOSを扱えない学生が増えている中で、幅広く企業側に安心感を与えることで採用につながると言えます。
基本情報技術者試験
●資格概要
ITエンジニアの登竜門とも言われる資格です。基本情報技術者試験は、業務独占資格(資格取得者以外が業務を行ってはいけない。医師免許等)や必置資格(資格取得者を用意しないと業務を行えない。保育士等)ではありません。認定資格という、情報処理の知識や技術が一定水準以上に達していると国から認められるだけの資格です。
しかしながら、企業によっては資格取得者にお祝い金や毎月の給料に資格取得手当を加算するところもあるなど、システムエンジニア(SE)やプログラマなど情報処理業界においては非常に重要視されている試験です。大学の情報系学部生やIT系の専門学校生が卒業までに取得を目指す資格。IT系企業に就職した場合、入社から3年程度以内に取得を命ぜられる場合も多いので、学生のうちに取得しておくと、社会人になってから業務に関する勉強に集中しやすい。手当等が最初からもらえるなど、メリットが大きい。
IT関連は入社後の研修や配属後の初業務で躓く新卒者が多く、それがきっかけで苦手意識が芽生えてしまい、結果、早期に退職・転職してしまうというパターンが多いので、この資格を取得できるくらい準備しておくとそういった事態に陥らなくて済む。という意味でもオススメです。
●試験内容と難易度(難易度:中)
マーク式の筆記試験で、毎年春期と秋期の年間2回行われます。試験時間は計300分で、午前150分と午後150分に分けられています。午前は小問を50問、午後は大問を13問中7問選択して回答します。午前・午後とも60%正答するのが合格基準です。
●取得するには
受験資格は特になく、誰でも受験できます。コンピューター言語の経験がない人はいちからの勉強になるので、じっくり腰を据えて勉強しましょう。
●取得後の仕事内容・職場
取得後は、IT企業やゲーム会社、大手企業の情報システム部門等で働く場合が多いと言えます。その中でも特にプログラマーやシステムエンジニアとして働いている人がほとんどではないでしょうか。
管工事施工管理技士
●資格概要
国家資格である施工管理技士のひとつです。主に建物に管状のもの(水道管・ガス管・給湯や空調のための管)を通す工事をする時に必要になる資格です。二級と一級があり、実務経験がないと受験できないので特殊な資格と言えます。実際に現場で管を通す作業員には必要のない資格ですが、工程管理・品質管理・安全管理をする場合に必要な資格です。
●試験内容と難易度(難易度:中)
学科試験と実地試験の2種類があります。学科試験は択一式で、実地試験は記述式です。学科試験、実地試験とも60%以上の正解率で合格になります。1級の場合は学科試験に合格した人のみが実地試験を受けることができます。
●取得するには
実務経験を積まないと受験することができません。必要な実務経験の年数は学歴によって様々です。例えば二級の場合、指定の大学を卒業すれば、最短の1年で受験することができます。
●取得後の仕事内容・職場
建設業に携わるのが一般的です。特定建設業の営業所に設置が義務付けられている専任の技術者や、工事現場ごとに置かなければならない主任技術者および監理技術者(取得級によって異なる)になることができます。また、建設業において、仕事を発注する際、資格がある人がその会社に何人いるかで判断することもあるので、出世や転職には有利な資格と言えます。
消防設備士
●資格概要
劇場、デパート、ホテルなどの建物は、その用途、規模、収容人員に応じて屋内消火栓設備、スプリンクラー設備、自動火災報知設備などの消防用設備等又は特殊消防用設備等の設置が法律により義務づけられており、それらの工事、整備等を行うには、消防設備士の資格が必要になります。甲種と乙種の二種類があり、 甲種消防設備士は、消防用設備等又は特殊消防用設備等(特類の資格者のみ)の工事、整備、点検ができ、乙種消防設備士は消防用設備等の整備、点検を行うことができます。
●試験内容と難易度(難易度:低)
筆記試験は4肢択一で実技試験は記述式です。
- 甲種特類
各科目毎に40%以上で全体の出題数の60%以上の成績を修めた者が合格となります。
- 特類以外
筆記試験において、各科目毎に40%以上で全体の出題数の60%以上、かつ、実技試験おいて60%以上の成績を修めた人が合格となります。また、電気工事士免状を所有している場合などは、試験の一部免除が受けれます。
●取得するには
乙種は誰でも受験が可能ですが、甲種は受験資格の制限があります。
甲種の受験の場合
- 電気工事士や建築士の資格を持つ人
- 乙種消防設備士の資格を取得したのち、2年以上の実務経験がある人
- 大学、短期大学、高等専門学校で機械、電気、工業化学、土木、建築に関する学科をおさめた人
が受験資格者になります。大学や短大によっては、受験資格用の授業を用意してくれているところもあるので、それらを活用すると長い実務経験や他の資格をパス出来るため有利です。
●取得後の仕事内容・職場
消防設備士の主な就職先としては、ビル管理、メンテナンス業務を行う会社があります。これらの仕事は企業や現場にもよりますが、比較的作業負担が少ない場合が多く、家族や趣味など仕事以外の要素を充実させたい人には人気があります。そのほかにも、消防用設備が設置してある大型のデパートやホテルなどに勤務する方も多くいます。甲種を取得している場合、プラント建設会社などへの就職へ有利になります。
給料が高い理系国家資格はある?
理系の国家資格が必要な職業において、給料や待遇に差はどのぐらいあるのでしょうか。有名な理系国家資格の平均年収をみてみましょう。
- 一級建築士 665万円
- 技術士 597万円
- 高等学校教員 約670万円
- 小学校教師・中学校教師 約668万円
※参考データ
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
- 総務省「地方公務員給与実態調査」
- 「年収ガイド」職業別年収
上記はあくまでも平均ですので、働いている会社や職種によって幅があります。
資格を持っている事が独立の条件になっている資格も数多くあるので、独立開業している人には平均年収を大きく超える人も多くいます。また、「フリーランスになって自由な働き方を選択したい」といった場合にも資格は能力の証明になるので、コネや人脈が少なくても仕事を受注出来る可能性が高くなります。また、教員のように資格が必要+公務員といった職業の場合には、安定して高い収入を得ることが出来ます。
資格を取得した上で大切なこと
資格とは、その分野・作業において一定以上の知識・技能があると証明するためのものです。資格を持っているという事は企業や顧客にとって「この人にはコレが出来る」という目印になります。しかしながらあくまで出来る事を証明するだけです。「 仕事が丁寧。信用できる人柄である。スピーディーに仕事をしてくれる。ミスがない。」といった、その人に頼みたいと思わせる要素を保証するものではありません。それは特定の資格がなければ従事出来ない職業においても同じです。病気や薬についてまともに説明もしてくれない医師や、弁護人の話をまともに聞こうとしない弁護士には、たとえ資格があっても依頼したいとは思わないですよね。
資格の有用性にばかりとらわれて、向かないことや興味のないことを仕事にしてしまった場合には、資格だけあっても誰にも頼りにされない事にもなりかねません。筆者個人としては、収入や需要ばかりにとらわれず、やりたい事(ないという人は少しでも興味があることでも十分です)や、必要な事の為に資格をとる方が良いと思います。もっとも大事な事は日々の業務において周りの人達の信頼を高めていくことです。その意識があれば、資格はあなたが理想の職場や仕事を手に入れる大きな手助けになるでしょう。
理系への進学と資格取得を考えている方へ
日本の就職の募集条件をみてみると、4年制大学卒であるかどうか、職種によっては理系かどうかを書いているものが多々みられます。やはり、4年制大学の理系学部を卒業することが就職活動において有利に働く場合が多いようです。
理系4年生大学卒業というのも立派な採用要件の1つとして認識されているわけです。
その上で希望の職種に確実に就く手段として、資格取得が有効です。
「何の資格をとれば自分のなりたい職業に就きやすいのか?そもそもどういった事がしたいのか?」悩んでいる人は沢山いると思います。大学によっては、そういった悩みに対して相談できる体制を整えていたり、学生の資格取得の為に対策授業を用意している場合もありますので、ホームページ等で情報を確認し、実際にオープンキャンパスや相談に足を運ぶなどして、進学を具体的に考えてみてはいかがでしょうか。