久留米工業大学

受験生応援サイト

Solving local issues

地域の課題を解決

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二酸化炭素による環境破壊を
モビリティの進化で食い止めろ。

空へ、宇宙へ。
拡大しつづける人類のインフラが、
これ以上、自然を侵食してはならない。

「気候変動は拡大し、加速し、深刻化している」。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、最新の報告書(2021年8月9日付)にそう記した。温暖化に至った最大の要因として名指しされているのが、二酸化炭素だ。化石燃料を燃やし、二酸化炭素を放出しながら、あらゆる産業を牽引してきたモビリティ。しかし時代は、その責任を問う。もう、時間の猶予はない。いち早く動いた自動車業界では、ハイブリッドカーや電気自動車が開発され、普及が進むが、簡単にはいかない業界がある。航空宇宙産業である。この分野を学びの対象とする交通機械工学科では、学生たちの未来につながる挑戦がはじまっている。

航空宇宙分野は、成長産業である。同時に、環境産業でなければならない。

挑戦は、大学が所有するセスナ機の燃料エンジンを電動に変換することからはじまった。とはいえ、「電動航空機」と聞いて、心許ない印象を受けはしないだろうか。ボディを宙に浮かせる動力が電気で、大丈夫なのだろうか。
だが、そんな考え方こそが、すでに時代遅れ。最近の電動モーターは、ガソリンエンジンより軽いのに、同じくらいのパワーがあるという。しかも、ガソリンエンジンの4分の1ほどのエネルギーで、同距離の飛行が可能になる。
動力を電気にすれば、二酸化炭素を排出せずに航行できる。そのため、電動航空機の研究は、いま世界中で進められている。交通機械工学科では、電気自動車用に開発されたモーターを用いてパワーユニットを構築し、セスナ機への設置をめざす。完成まであとわずか。電動セスナ誕生の日は近い。決してパソコンでのシミュレーションでは終わらせない。それが、ものづくりの久留米工業大学らしさでもある。
そして、航空機もゼロエミッションへ。その波を受け、宇宙産業でもイノベーションがはじまっている。なかでも注目されているのが、交通機械工学科でも、研究を進めるハイブリッドロケットエンジンだ。
現在のロケットエンジンは、固体燃料を固体酸化剤で燃焼させるか、液体燃料を液体酸化剤で燃焼させるかのいずれかで、ほとんどの機体が使い捨て状態にある。しかも火薬や液体水素が燃料なので、爆発の危険が高い。このデメリットを解消するのが、ハイブリッドロケットエンジン。ハイブリッド型は、プラスチックやワックスなど爆発しない固体燃料を液体酸化剤で燃焼させる。この方式によって、個体ロケットエンジン最大の欠点であった点火消化のコントロールを可能にした。さらに、機体も再利用でき、燃料部分を入れ替えれば、再び飛べる。
これは、二酸化炭素など有害物質の排出削減に向けた大きな一歩である。また、何度も機体を利用できるのであれば、そのメリットも大きい。
環境に負荷を与えない航空機の実現に向けて、いま、業界は大きな転換期にある。だからこそ、設計や製造を担う人材へのニーズも高い。国土交通省の資料によると、アジア・太平洋地域において、2030年には現在の約3.5倍の整備士が必要になるとの推計も示されている。航空宇宙業界は、いまが伸び盛り。あふれる可能性の大空へ羽ばたく若者の育成が、久留米工業大学の使命である。

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シンギュラリティを見据えて、
真のAIスペシャリストを育成せよ。

成長し、到達し、越えていけ。
人間とAIが創りだす新時代へ。

「シンギュラリティ」(技術的特異点)。ここ数年、この言葉がさまざまな分野で口にされるようになってきた。未来学から発したこのワードが光を当てるのは人工知能、すなわちAIの将来である。
コンピュータサイエンスの発展とともに、AIはかつてないスピードで進化をつづけている。このまま加速度的かつ自律的に進化すればどうなるか。AIはやがて、人間の想像と理解を越えるほどの知性を獲得する。そして、人類を押しのけて地球文明の担い手となるのではないか。その到達点、つまり新たなテクノロジーの“特異点”こそがシンギュラリティなのである。
こうした大変革を見据えて、久留米工業大学も新たな研究の海に漕ぎ出した。2020年4月、「AI応用研究所」が誕生したのである。

AI時代の「人間味豊かな産業人」とは?問い直される原点と、試される覚悟。

地域の発展に貢献するAI研究と、そのための人材育成。本学のAI応用研究所の特徴は、ここにある。その基盤となるのが「地域連携課題解決型AI教育プログラム」である。
「1年前期」から「4年後期」に至る8つのステージをとおして、コンピュータの基礎からAIについての幅広い探究、さらに地域と連携した実践的な体験学習を体系化している。
このプログラムで身につけるのは、まず学士・修士としての専門知識と技術力である。加えて、AI社会の最前線で活躍するための「AI基礎力」を修得。そして、地域のさまざまな課題を見つけ、解決に導くための「AI応用力」を獲得していく。そのために、「思考力」や「判断力」「表現力」「発信力」が不可欠であることはいうまでもない。
プログラムの推進力は組織力に支えられている。その柱となるのは「最新技術調査」「地域連携・応用」「データ収集・IOT」「AI実装・評価部」「AI教育支援」の5部門。それぞれ専門分野を探究する教員たちが、万全の体制で学生をバックアップしている。
ここでの学びをとおして、学生は単なるコンピュータエンジニアの領域を超え、来たるべきAI社会をリードするスペシャリストとしての風景を目にする。その“特異点”まで自らを引き上げ、さらにそこを突破していくための舞台。それが、AI応用研究所なのである。
「人間味豊かな産業人の育成」。創立以来、本学が掲げる建学の精神である。この理想は今後も変わらない。一方で、時代は激変している。AIを筆頭とするコンピュータシステムが社会の隅々にまで浸透し、人間生活のあらゆるシーンを支えている。この流れはさらに加速する。社会は根本から変革され、やがてAIが人間を乗り越え、私たちをリードする時代がくるかもしれない。まさにシンギュラリティの到来である。
この事実に思い至るとき、工学に携わる私たちは改めて自らの原点を問われることになる。そもそも、「人間」とは何か。「人間味」とは何なのか。「産業人」とは、どうあるべきなのか。その「育成」とはどのような教育であり、どういう大学でなければならないのか……と。  AI応用研究所。それは、次代を見据えた最先端の研究施設に違いない。と同時に、本学の理想と存在意義をいま一度問い直し、アップデートしつづけ、新たな使命を確かな実績とともに発信していく拠点でなければならない。その覚悟を、私たちは試されている。人々に、地域社会に。そしてなにより、AIに。

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社会のさまざまな課題を、
新たなアプリで解決せよ。

もしもし、未来ですか?
スマホは、いま、
次代の課題に問いかける。

インターネットの普及によって「不要品」 の烙印を押されかけているモノがある。 電話である。固定電話がかつてほどの必要 性を失って久しい。ファクシミリに至っては、 まるでカンブリア紀の化石である。オフィスに横 たわる複合機は、コピー機とプリンタ、スキャナと しては健在だが、「FAX」のボタンを押したのは何億 年前だったか……。メールやSNSどっぷりのティー ンエージャーたちからは、「ファックス? それって、おいしいの?」と訊かれる始末だ。 一方で、ネット空間の拡大にともなって「必需品」の太鼓判を押されたモノがある。 電話である。スマートフォンの登場は、社会を一変させた。いまや、世間はスマホなしには機能しない。ハード としての進化はもちろんだが、目を見張るのはやはりソフトだ。ジャンルと機能に富んだスマートフォンアプリの 増殖ぶりは、多様化しつづける現代社会のニーズの裏返しといえよう。ならば、それに応えぬわけにはいかない。 情報ネットワーク工学科の出番である。

「安全で豊かな生活」のために若者たちは、“友だちづくり”に挑戦する。

スマートフォンは、いまや若者にとって「友」ともいえる存在である。故に、学生にとってアプリの開発は、ものづくりよりも「友だちづくり」と言えるかもしれない。
自らの技術で創りあげた「友」が社会の抱える課題と向き合い、その解決に貢献できるか。その結果は、工学の道を歩む若者たちに大きな喜びを与えるだろう。そしていま、私たちが課題として取り組んでいるテーマ。それが「安全で豊かな生活への貢献」である。
たとえば、小路口心二准教授のチームでは、「交通事故発生地点の確認アプリ」を開発している。
交通事故には、さまざまな原因がある。場所や天気はもちろんだが、時間帯も大きく関係しているようだ。そこで、小路口准教授と学生たちは、福岡県が公開している交通事故関連のオープンデータを活用。事故が起きた地点、天気、時間などを抽出し、地図アプリと連動させて可視化した。これによって、出発地から目的地までの〈ルート予報〉が可能となる。つまり、天気予報のような感覚で、事故が起きそうな場所や天気、時間帯を事前に知ることでトラブルを回避するのである。
同じく小路口研究室では、地域で発生する犯罪に着目。これまでに福岡県内で起きた犯罪の「場所をはじめとする諸情報」をマップに表示するアプリを開発した。これが、「福岡県犯罪オープンデータを利用した防犯アプリ」である。
この「可視化」は、アプリ開発のキーワードといえるだろう。では、視覚で伝えられない利用者、つまり眼の不自由な人たちを応援することはできないのだろうか。この問いに答えるのが山田貴裕准教授のチームである。
めざしたのは「点字ブロック認識アプリ」の開発だ。スマホには高性能カメラが搭載されている。この“デジタルの眼”を使って、点字ブロックとその周辺情報をリアルタイムでキャッチ。音や振動によって利用者にブロックの位置や障害物の有無を知らせる。このアプリに期待する声は多いだろう。
情報ネットワーク工学科では、ほかにもさまざまなタイプのソフトに着手。自信作をひっさげて、アプリコンテストやビジネスプランコンテストに挑戦している。
久留米は、古くから先端技術の拠点だった。「からくり儀右衛門」の異名をとった田中久重も、久留米絣を創った井上伝も、当時の最先端を走っていた。彼らがめざしたのも「人々の豊かな暮らし」に貢献する技術であった。
アプリすなわちアプリケーション(application)は、「応用」や「利用」と訳される。同時に、「努力」や「勤勉」といった意味をも有する。確かに、ネットやスマホは暮らしを便利にした。しかし、社会を安心の光で照らし、さらに豊かな未来に導くのは最新の通信インフラや先端のデバイスだけではない。
技術とアイデアをもった若い才能が、時間と汗を惜しまず全力で課題に取り組んでみる。越えられなかったハードルを一つひとつ越えていく。そのひたむきな探究心が次代を拓くのだ。そして、その挑戦の気概こそ、ここ久留米の伝統なのである。

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被災者の心に寄り添えるボランティアのスペシャリストを育てよ。

ものづくりをとおして、人をつくる。
挑んだのは、学生とベストティーチャーだった。

その日、5名の教員に学長から表彰状が手渡された。令和元年度「学生が選ぶベストティーチャー賞」が発表されたのである。久留米工業大学では、学生を対象に授業評価アンケートを実施している。その結果、評価の高かった5名が選ばれ、表彰された。2020年10月27日のことである。
交通機械工学科から1名が選ばれた。情報ネットワーク工学科から2名、うち1名は本特設サイト「VR草刈の刃」でおなじみの工藤達郎准教授である。残る2名は共通教育科の教壇に立っている。ひとりは巽靖昭准教授、そしてリー・リチャード准教授である。
工学を学ぶ若者は、めざす専門分野の深遠をその澄んだ眼で見つめていく。同時に、同じ視線で自らを導く教員たちを見ている。学生たちの厳しくも瑞々しい探究心を満足させた巽准教授とリー准教授。ふたりが協力して進めているユニークな活動がある。それが、「床下浸水対応講習会模型」製作プロジェクトである。

家屋を知り、被災の現場を学ぶ。講習会をとおしてボランティア人材を育てる。

久留米工業大学がある久留米市は近年、毎年の様に豪雨被害に見舞われ、2018年から3年連続で計4度の床上・床下浸水が発生している。迅速かつ的確な災害支援活動と、それができる人材育成が急務なのだ。
そこではじまったのが「床下浸水対応講習会模型」製作プロジェクトである。ボランティアをめざす有志や、久留米市内の住民を対象に、各地で浸水家屋に関する講習会を開催。その際に、実際の建物を詳細に再現した模型を使おうというのである。
災害復旧や防災啓発を行う団体、「くるめ災害支援ネット・ハッシュ」の要請を受けて立ち上がったのは、本学の建築・設備工学科の学生たち。彼らを率いたのが、巽靖昭准教授とリー・リチャード准教授であった。
ふたりが共通教育科の教員であることは、すでに述べた。巽准教授の専門はミクロ経済学。リー准教授はアメリカ出身で、応用言語学と外国語教育を専門としている。このふたりが建築・設備工学科と組んで模型づくりに挑戦する。なるほど、いかにも本学らしいプロジェクトではないか。
本学の建築・設備工学科は、建築と設備の両方を本格的に学べる全国唯一の学科である。この強力なアドバンテージに“ベストティーチャー”の指導力が加わり、さらに災害支援団体、地元の建設会社などの協力もあって、プロジェクトは順調に進んだ。そして、2021年3月、床下浸水対応講習模型(1基)は完成したのである。
講習会に臨んで、巽准教授は語った。「大切なのは、普段からの準備と連携です。これからは、社会福祉協議会や各種団体さんと、もっと日常的な交流を深めていきたい。そして、本学自身が災害復旧ボランティアの重要性を発信し、そのスペシャリストを輩出する拠点になりたいと願っています」

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楽しく刈って、鋭く切り込んで、「草刈りは重労働」のイメージを払拭せよ。​

ユニークすぎる企業とのコラボで実現。
VRの刃が、隠れた社会問題に切り込んだ。

「夏草や兵どもが夢の跡」
芭蕉が詠んだとおり、野草は夏の暑い盛りに驚くほど伸びる。足元をくすぐるほどの高さならまだ風情もあろう。が、膝から腰、腰から胸にまで伸びれば、それどころではない。当然、「草刈り」ということになるのだが、これがカンタンではないのだ。
草刈りは、農業や林業だけでなく土地の開発・管理のあらゆるシーンに欠かせない。いずれの場合もたいへんな重労働であり、高齢化や人手不足も手伝って、現場の負担は重くなるばかり。地味で見過ごされがちだが、社会問題としての根はかなり深い。放っておけば、草は大地を覆う。人を拒む。土地は荒れていく。国土の多くを森林が占め、自然との共存を「自明の理」としてきた日本。これが、この国の夏なのである。
問題解決のためには、まず問題がそこにあるという事実を社会に知らせること。そこで、情報ネットワーク工学科と、地域に根を張るユニークな企業がタッグを組んだ。武器は、先進の技術と熱い使命感。そして、ほどよい遊び心。令和の兵たちの夢が、動き出した。

昭和のノリと令和の先端技術。その融合で「草刈問題」を啓発する。

平成30年(2018年)のことだった。情報ネットワーク工学科の工藤達郎准教授は、あるセミナーイベントで自らの研究について発表した。テーマは「メディアアート×VR技術」。
その先進性に注目し、声をかけてきたのが株式会社筑水キャニコム(以下キャニコム)である。キャニコムは福岡県うきは市に本社を構えるメーカー。農業や林業、土木建設などの現場で使われる運搬車に加え、草刈作業をはじめとする産業用機械の製造販売を手がけている。その場で工藤准教授に伝えられたのが「草刈問題」だった。
テーマはシンプルだ。まず、この問題の存在を世に知らしめること。さらに、重労働といわれる作業も最新の機器を使えば、実は楽に、むしろ楽しくできるという事実を伝えること。この機器をつくっているのがキャニコムなのである。
なんともユニークな企業である。キャニコムの創業は、1948年(昭和23年)。鍛冶屋からスタートし、その後、産業機械運搬車のメーカーとして大躍進。現在は、業界大手として北米、ヨーロッパ、アジアなど世界40数カ国に進出している。
「ものづくりは演歌だ」のスローガンのもとに開発される製品はどれも革新的。が、まず目を引くのはネーミングのセンスである。〈草刈機まさお〉はまぁいいとして、〈伝導よしみ〉に〈三輪駆動静香〉に〈安全湿地帯〉など。これでもか、これでもか、これでいいのか……と、攻めたネーミングに圧倒される。さらに、〈山もっとジョージ〉で「第30回 読者が選ぶネーミング大賞」(日刊工業新聞社主催)のビジネス部門で1位に輝いたというから畏れ入る。というか、恐れを知らぬ兵企業なのだ。
「面白い。だったら、ゲームだッ」。そう考えた工藤准教授と学生たちの動きは早かった。実際に現場に出向いて草刈を体験。作業の実態と使われる機器の特徴を把握したうえで開発を進めていった。
完成したゲームのタイトルは「VR草刈の刃(くさかりのやいば)」。「また鬼滅かよッ」とのツッコミが聞こえそうだが、パートナー企業の“実績”を思えば、むしろフツーかもしれない。
スタートしてみると、いきなり流れる演歌調のBGMにまず驚かされる。VR空間にゲーマー自身の両手が出現。右手に〈草刈機まさお〉の刃を、左手には〈荒野の用心棒ジョージ〉の刃をもって、草や枯れ木を刈りまくるのだ。もちろん〈まさお〉も〈ジョージ〉もキャニコムの製品名である。
音楽に合わせてタイミングよく草の急所を刈れば高得点。さらに、「草刈機用ガソリン」を取って使えば、倍速モードとなり、時間の流れが遅くなる。このまったりとしたフィーリングもVRならではの楽しさといえよう。
演歌に誘われて、刈って、刈って、刈りまくれば、ストレスも発散される。音楽の“昭和感”と最先端CGとの融合がつくりだすバーチャル空間で、いつか「重労働」というイメージもすっかり刈り取られ、不思議な爽快感に達する。LOVEではなく、GAMEがOVER。シメに「ものづくりは演歌だ〜ネぇ」と言われれば、もう恍惚とするしかない。
試みに、本学のオープンキャンパスで来場者に体験させたところ、高校生にも大好評。けっこう幅広い層にウケそうだ。
草刈機は、重量もあって運搬には向かない。が、このようにデジタル化すれば、実物を展示会場に持ち込む必要もなく、啓発イベントも全国各地でカンタンに開催できるだろう。
VRとは、この世の夢か、幻か。自ら兵となって刃をふるってみれば、心地よい夢の跡がまた楽しい。
ということで、いま一度、お手合わせ願おうか。

09

ストレスよ、さらば。
このシステムが、駐車のスタイルを変えていく。

スムーズにとめる。
スマートにとめる。
駐車場の進化は、止まらない。

ハイブリッドエンジンから電気自動車、そして自動運転へ。環境への対応や自動化、無人化の波のなかで、クルマは新たな“道”を模索しつづけている。まさに地球規模の社会問題だが、日々のカーライフにおいてもやっかいな問題が横たわっている。
パーキングである。クルマであふれた駐車場に入ってしまい、空きスペースを探してダラダラとさまよう。「あッ、あそこが空いてるッ」と喜んだのもつかの間、別の1台にスーッと入られて苦笑い。あげく、入り口まで戻って、片っ端から空きを探してノロノロ運転に時間を費やす。ドライバーなら誰もが一度は経験する日常的な、しかし大きな問題である。あの無駄な時間、あのストレス、あのイライラをどうにかできないものか……。
“いま、そこにあるニーズ”に応えて、新たなプロジェクトが動き出した。

AIとエッジコンピューティングが実現したスムーズで低コストなパーキングシステム。

駐車場の空きスペースを見つけて、無駄なく、無理なく、安全にとめる。そのために開発されたのが「AIスマートパーキングシステム」である。これは、本学の情報ネットワーク工学科と株式会社キューオキ(以下キューオキ)とのコラボによって開発された。中心となったのは、AI応用研究所長でもある千田陽介教授である。
開発の重要なキーワード、そのひとつが「エッジコンピューティング」である。これは、カメラやセンサーを活用して当該の環境から必要な情報を収集し、そのデータをコンピュータでダイレクトに解析するというもの。遠隔的な処理ではなく、データの発生現場に近い場所(エッジ)で情報処理を完結する。これが重要なポイントである。
特長は、データ伝送の簡素化と解析時間の短縮化。クラウドや離れた場所に置かれたサーバーを経由しないため、遅延の少ないリアルタイムなデータ解析が可能となる。これを実現したのが、沖電気工業株式会社が開発し、キューオキが提供しているAIエッジコンピュータ「AE2100」である。
「AE2100」は、幅およそ25センチで高さ約5センチ、奥行きも16センチほどしかない。ちょっとした菓子箱ほどのボディである。「この小さな筐体で高度なAI処理を可能にしたのが画期的」と千田教授は語った。
駐車場に設置された数台のカメラで各エリアの混雑状況をキャッチ。収集された画像データが「AE2100」でAI処理される。各車室の空き状況が駐車場のマップ(俯瞰図)に色分けで表示され、「このスペースが空いている」「ここを曲がればいい」「このスペースは別のクルマも狙っているから、こちらのスペースに向かうほうがいい」といった具体的なアドバイスとなってドライバーに提示されるのである。
駐車場の経営者や管理者のメリットも見逃せない。従来、このようなシステムを構築しようとすれば、駐車場の天井や地下に大きなデバイスを設置するなどの大規模な工事を要した。消費電力も小さくない。しかし、「AIスマートパーキングシステム」に必要なのは、監視カメラと「AE2100」と管理用のサーバーのみ。つまり、人件費や管理費が抑えられるうえ、各スペースの稼働率の集計も簡単なのである。
さあ、安心してとめるがいい。しかし、クルマと駐車システムの進化は止まらない。

08

5G時代を拓くパートナーモビリティ。
その進化をトレースせよ。

「手助け」に支えられて、
モビリティは、人と次代と対話する。

本学が推進してきた「スマートモビリティ プロジェクト」については、この特設サイト の「MISSION 01」でも紹介した。 プロジェクトの推進母体は、「インテリジェント・ モビリティ研究所」(IML)。IMLは、情報通信、地 図情報、産業機械、福祉サービスなどの分野を牽引す る企業や研究機関に呼びかけて協力を要請してきた。こ の要請に応え、IMLとともに「対話型AI自動運転車いす パートナーモビリティ」(以下「パートナーモビリティ」)の 開発に協力しているのがNTTドコモ九州(以下ドコモ)である。 開発から実用化、そして製品化へ。5Gを背景に、最先端の通信技 術がパートナーモビリティの進化を加速させる。 面白くなってきた。

NTTドコモ九州とのパートナーシップが、パートナーモビリティに「やさしさ」と「思いやり」を与えた。

実証試験は2017年から進められている。走行する道の状況がパートナーモビリティの自動運転機能に一定の影響を与えることは、かねてから予想されていた。たとえば、道にあるさまざまな障害物や歩行者の混雑状況によってモビリティ自身の位置を正確に認識できなくなることがある。デジタルマップに表記されていない場所もまだまだ多い。このような状況に直面するとモビリティは事態を判断できずに立ち往生してしまう。また、利用者の体調が急に悪くなる可能性もある。こうしたトラブルをマネジメントするシステム。それが、ドコモとともに開発しているのは「リモート手助け」である。
「リモート手助け」は、5Gに加えてドコモオープンイノベーションクラウドⓇ(dOIC)と呼ばれる独自のデータ通信技術によって支えられている。超高精細でリアルタイムな映像伝送と、正確な遠隔操縦によってパートナーモビリティを遠隔地からコントロール。トラブルを回避しながら、利用者を現場から安全に移動させるのである。さらに、「エッジAI対応5Gデバイス」と呼ばれる特殊なデバイスを開発。格段に進化したAI処理機能によって自動運転を補助する。
もちろん、安全性とプライバシー対策も万全である。インターネットを経由しないdOICを活用することで高度なセキュリティ環境を実現。「エッジAI対応5Gデバイス」が顔認証によってプライバシーを保護する。障害物があっても、混雑した場所でも心配ない。万一、体に異変があっても大丈夫。離れていても、利用者は常に見守られている。必要な手助けを受けられるのだ。
IMLはドコモという新しいパートナーを得ることで、パートナーモビリティに「やさしさ」や「思いやり」の機能を注ぎ込んだ。それは、利用者の新たな足である。そして、翼でもあるのだ。
IMLを率いる東大輔教授の専門は、航空機と自動車の空力デザインである。博士号は、航空機のデルタ翼に関する研究で取得した。民間企業の最前線で、レーシングカーのデザインを手がけた経験もある。このパートナーモビリティに、フォーミュラカーを走らせる高度な空力理論は必要ない。旅客機を支える翼の設計とも無縁だろう。しかし、時代の風はここにデザインされている。それは、引きこもりがちだった人々を青空の下に送り出す翼でもある。
通信は、5G(第5世代)に突入した。人と人、人と社会、そして人とノリモノとの関係は、いまどのような世代に向かおうとしているのだろうか。

07

巧妙化、複雑化する現代犯罪から、
地域の暮らしをガードせよ。

人々の安全を守っている。
安心を支えている。
生活空間から、サイバー空間まで。

相次ぐ自然災害や疾病の流行が生活を脅かしている。さらに、社会の多様化にともなって犯罪が増加し、その手口も、ますます巧妙で複雑になっている。誰もが安心して暮らせる。わが国が世界に誇ってきたこの最もベーシックで重要な社会のあり方が、いま揺らいでいる。この事態に対処するために大学にできること。その主役は、やはり学生だった。

安全な暮らしを守りたい。仲間とともに、正義とともに。

日本は、安全で安心して暮らせる国とされてきた。しかしいま、この「安全神話」が大きく揺らいでいる。時代の変化にともなって、窃盗や放火、暴行、殺人といった「目に見える犯罪」だけでなく、サイバー空間を舞台にした「見えない犯罪」も拡大している。こうした問題と向き合い、地域の安全に貢献している学生たちがいる。本学の防犯ボランティア団体「輪導」である。
「輪導」には、ふたつの意味がある。第一は「同じ気持ちをもつ仲間とともに皆を導く」。もうひとつは「正義とともに」。2011年の発足以来、地域住民を見守る夜間パトロールやインターネットの有害サイトを監視するサイバーパトロールなど、さまざまな保安活動を展開してきた。さらに、飲酒運転撲滅キャンペーンや東日本大震災復興支援の募金活動なども推進。こうした取り組みが認められ、2018年には福岡県防犯協会連合会から功労団体として表彰された。
ボランティアは、辛いことを無理に行う“苦行”ではない。困っている人に上から手を差しのべる“施し”でもない。こちらが受け取るものも多いのだ。笑顔に勇気づけられる。感謝の言葉に励まされる。そのようにして与えられたパワーを分かち合う、その喜びがまた、彼らを次のステージに導いてくれるだろう。「正義」への熱い想いを秘めた仲間とともに。

06

若い発想と実行力で、
あしたの社会を創造せよ。

大学生の、大学生による、
未来のためのアイデアソン。
それは、発想と発想の競演。

社会は、常に新しい発想を求めている。若くみずみずしいアイデアを待っている。そうした社会の潜在的なニーズに応えるためのイベントがある。毎回、時代に即したさまざまなテーマを設定し、そのテーマにまつわる課題をクリアするためのアイデアを創出する。その試みをイベントにしたのが「アイデアソン」である。果たして、若者たちは社会の期待に応えられるのか。その発想は、本当に時代を変えられるのか。本学の学生たちが、九州初となる「大学生アイデアソン」の開催に挑んだ。

人とロボットは、どこまで進化するのか。
学生たちが提示した未来へのパースペクティブ。

アイデアソンとは、アイデアとマラソンを組み合わせた造語である。1990年頃にアメリカではじまったとされるイベントで、ITに関連する分野を中心に開催されている。毎回テーマを設定し、参加チームがテーマに関する課題やソリューションを検討。プレゼンテーションやディスカッションをとおして新しいアイデアを創出していく。
本学も、これまでにも何回かアイデアソンに参加してきた。2015年には「Code for Kurume」主催のアイデアソンが本学100号館で開かれた。また、2019年3月に北九州で開かれた「ロボットアイデアソン〜ぼくらの未来創世物語」には、本学から3チームが参加、2チームが入賞を果たしている。
アイデアソンの多くは、企業や自治体に関連する組織が主催している。これを学生主体で開こうというのが「大学生アイデアソン」である。その九州初となる試みは、2019年6月1日と2日で開かれた。タイトルは「大学生アイデアソン〜Xperia Hello!で創る未来の大学2020」。「Xperia Hello!」(ソニーモバイルコミュニケーションズが開発したコミュニケーションロボット)を活用して、豊かな未来づくりのためのコンセプトやプランづくりに挑んだのである。
本学のFCS(Future Creative Station)が中心となって企画・運営を進め、近隣の大学や高専に参加を要請。本学のほかに九州大学、長崎県立大学、福岡工業大学、福岡大学、北九州高専、久留米高専などが参加した。さらに、ソニーモバイルコミュニケーションズをはじめとする企業数社の支援も実現。「発想と発想の競演」の準備は整った。各大学が本気度をかけて臨んだプレゼンテーションはどれも説得力にあふれ、ディスカッションも白熱。ハイテンションと和やかさが融合したイベントは、大成功のうちに終了した。
まさに、夢のような2日間だった。が、ここで見出されたアイデアをただの夢に終わらせるか、リアルな未来に生かすことができるか。それもまた若者たちの本気度にかかっている。

05

現場スタッフの負担を軽減し、
持続可能な介護サービスを実現せよ。

介護する人と、される人。
さまざまなニーズに応えながら、
医療と福祉の新時代を開く。

高齢化が進む現代社会において、いま最も重要な問題にあげられるのが福祉や介護を取り巻く環境である。
介護を受ける人(被介護者)は、より安全で快適な生活を過ごしたい。介護の現場で働く人(介護者)は、できるだけ作業負担を軽減し、持続可能な介護サービスを提供したい。相反する難しいテーマだが、現場は「待ったなし」の切実な状況にある。時代が求めるこの喫緊の課題に、機械工学の側面から光を当てた若者たちがいる。

「ベッド」と「移動」と「車いす」を繋ぐ“三位一体の介護体制”を構築。

介護の現場では、日々さまざまな作業が繰り返されている。なかでも、スタッフの大きな負担となっているのが「移乗」である。ベッドから車いすへ、また車いすからベッドへ。被介護者を移すこの単純な作業が大きな問題なのである。そこで、この作業をサポートする「移乗支援機器」の開発が、本学の機械システム工学科を中心に進められた。
開発には、いくつものハードルがあった。まず、一般の病室や住宅で使える小型軽量タイプであること。操作がスムーズで快適であること。安全性と耐久性に優れていること。もちろん、コストも無視できない。開発チームは、実際に医療と介護の現場に足を運び、介護士や看護師、被介護者たちにヒアリング。設計と試作を繰り返し、ようやく完成にこぎつけた。
これに先立って、本学では久留米大学医学部と共同で、あるプロジェクトが進んでいた。認知症患者のベッドからの転倒や徘徊が大きな問題となっていたため、患者がベッドを離れるときの動きを独自のセンサーで数値化。常時モニターしながら、離床によるトラブルが起きる前にナースが対応するシステムの開発をめざしていたのである。
この「臥床患者の活動計測システム」と「移乗支援機器」「対話型自動車いす」が実現するのは、まさに三位一体の介護体制といえる。ベッドで寝ている時間、ベッドから車いすに移動する時間、車いすで移動する時間。3つの生活時間は、そのまま介護サービスの時間でもある。それぞれの作業を繋ぐことで、「不安と負担の時間」を「安全で快適なひととき」に変える仕組みが構築できた。
「自動車工学の久留米工業大学」。本学は、長くこのイメージとともに認知され、地域にも業界にも親しまれてきた。しかし、時代は変わる。今後は、これまでの実績を踏まえながら「社会福祉の先端モビリティ研究の久留米工業大学」のブランドイメージを確立させていくだろう。

04

見捨てられ、埋没していく建物。
そのポテンシャルに、再生の光を当てよ。

時間と人々の協力を味方にして、
空き家は、いま、
地域の活力として生まれ変わる。

地域における見逃せない問題のひとつに、 「空き家の増加」がある。人が住んでいない というだけで、特に大きな問題がないよう に思える空き家だが、時間の経過とともに 大きなトラブルを引き起こしてしまう。 景観を損ない、防災上のリスクを高め、 衛生面でも近隣地域に悪い影響を及ぼすの である。 この文字どおり「放っておけない 地域の課題」に、建築・設備工学科が挑んだ。

斬新なリノベーションで、「負の遺産」を「地域の資源」に変える

人の管理がなされず、放置されたままになった住宅は、さまざまな問題を引き起こす。まず、老朽化による倒壊の危険性があげられる。樹木や雑草が野放図に伸び、近隣の住宅や土地に悪影響を及ぼすことも多い。
さらに、ゴミが不法に投棄される、悪臭や害虫が発生する、不審者が住み着いてしまう......など、深刻な事態に進展してしまうのである。
このように、ともすれば「負の遺産」となる空き家を、逆に「地域の資源」として活用できないものか。このテーマに取り組んでいるのが「うきはリライトプロジェクト」である。福岡県うきは市を舞台に、住民のほか行政や大学、金融機関などが連携して空き家の再生に着手。将来を見据えた持続可能な地域生活のための施策を立案・推進している。
久留米工業大学では、建築・設備工学科の教員と学生で構成される「ASURA(アシュラ)」が中心となって、この「うきはリライトプロジェクト」に参画している。実際に空き家となった古民家に出向き、周囲の綿密なリサーチを展開。古さを生かし、新築にはない風格や情緒を盛り込んだ斬新なリノベーションプランを提案している。
————Time is on our side.
建物に蓄積された 時間 は、再生の光に照らされて“”、いま、確かに地域の財産となっている。

03

ICTのスペシャリストとして、
注目のプロジェクトをリードせよ。

蓄積され、公開され、活用される。
そのときデータは、
地域振興の起爆剤になる。

インターネットが地球を覆っている。 パソコンもスマホも、 いまや生活の必需品といっていい。 世界数十億のネットユーザーは、 そのプロフィールも、ライフスタイルや 趣味趣向も、千差万別。そうした個人の志向を基に、 いま、この瞬間にも膨大なデータがやり取りされ、 蓄積されている。 データは、目に見えない。しかしそこには、 無限ともいえる知恵が、経験が、価値が眠っている。 この見えない“宝の山”を、我々の生活に生かせないものか。 この発想から生まれたのが「Code for Kurume」である。

ビッグデータを活用して地域の諸問題をICTで解決。

市民が主体となって、ICT(情報通信技術)を活用しながら地域のさまざまな課題を解決する。こうした活動が、いま全国的なムーブメントとなっている。その中心となっているのが2013年に設立された「Code for Japan」。「ともに考え、ともに作る」をコンセプトに、東京を拠点に幅広い活動を展開している。
「Code for Japan」の理念は、全国各地に広がっており、「Code for ○○」とそれぞれの地名を組み込んだプロジェクトが数多く生まれている。
「Code for Kurume」も、この気運のなかで誕生した。2015年に「Code for Japan」とも連携し、今日まで活動を続けている。その目的は、ビックデータを活用することによる地域の活性化である。インターネットをとおして自治体や企業は膨大なデータを蓄積している。このデータを公開し、地域の医療や福祉、介護、防災、観光などの各分野に生かすことで人々の生活を豊かにしていくのがねらいだ。
久留米工業大学は、「Code for Kurume」のコアメンバーとしてこのプロジェクトに参加。情報ネットワーク工学科の教員と学生が中心となり、ICTのスペシャリストとして、システムの開発や運営をリードし、会議やイベント、ワークショップ、報告会などを展開している。

02

いにしえのパイオニアをリスペクトし、
伝統産業をバックアップせよ。

先進のメカトロニクスが、
100年前の最先端を甦らせる。

「久留米絣は、久留米を中心とした周辺地域で作られている伝統的な織物。備後絣、伊予絣と並ぶ日本三大絣のひとつで、国の重要無形文化財にも指定されている。伝統産業は、「時間の産物」である。数十年、数百年を経て改良が重ねられ、磨かれ、価値を高めていく。が、一方で、その設備にも歳月は容赦なく蓄積し、傷み、不具合を露わにしていく。久留米絣も、製造機器の老朽化は深刻で、補修部品の確保もままならないという状態が続いていた。この窮状を知って、機械システム工学科が動いた。

過去へ。そして、未来へ。先端技術は、時代を超えて地域を輝かせる。

久留米絣の発祥は、江戸時代後期にまで遡る。創始したのは、地元の米穀商の娘だった井上伝である。絣の技法はそれまでにもあったが、井上は独自のアイデアを加え、これが久留米絣の原型となった。いまからおよそ200年前のことだ。のちに、その独特の風合いが評判となり、久留米藩も地域の産業として生産を奨励。「久留米絣」として全国に広がることになる。
一方、国産初の動力織機が生まれるのは1896年。発明したのはトヨタの創業者・豊田佐吉である。「Y式織機」と呼ばれるその機械は久留米絣にも導入され、なんと、いまも工場で稼働している。とはいえ、「100年もの」のビンテージ・マシン。老朽化は否めない。メンテナンスを重ねて、なんとか“現役”を続けてきたが、いまでは補修部品の確保さえ容易ではない。
そこで、本学の機械システム工学科が中心となって立ち上げたのが「久留米絣プロジェクト」だった。教員と学生が工場に足を運び、課題の解決に取り組んだ。試行錯誤のすえ、昔ながらの鋳造技術に最新の3次元CADと3Dプリンタを組み合わせて、補修部品の製造をサポート。安定生産に貢献している。
井上伝も豊田佐吉も、時代の最先端を走るパイオニアだった。ものづくりにかける彼らの情熱は、いま、私たちのハートと確かに響き合っている。
先進技術は時代を超える。しかし、そのベクトルは、未来だけに向いているわけではない。ときに、過去へ遡り、地域に根づいた固有の文化や産業にも積極的にアプローチする。伝統を継承し、それを新たな時代に向けて再生する。そうした活動もまた、久留米工業大学に託された重要なミッションなのである。

01

最も新しく、最も身近なノリモノで、
「多様化の時代」を駆け抜けよ。

モビリティがパートナーになる。
人と社会を繋ぐ絆にもなる。

「多様化の時代」といわれる今日、地域も企業も、さまざまな個性と能力をもった人材を求めている。その一方で、「社会に参加したい」という意欲をもちながらも、障がいがあるために、その力を発揮できずにいる人々も多い。「社会のニーズ」があり、「人のウォンツ」がある。しかし、それらを繋ぎ、機能させることは難しい。この課題に、テクノロジーの側面からアプローチして導き出した答え。それが、久留米工業大学の「スマートモビリティプロジェクト」である。

正確で安全な移動で社会進出を支援し、介護福祉の現場もサポート。

「スマートモビリティプロジェクト」の母体は、本学が2015年に開設した「インテリジェント・モビリティ研究所」(IML)である。このIMLが中心となり、さまざまな外部機関に協力を呼びかけた。呼びかけに賛同したのは、情報通信、地図情報、産業機械、福祉サービスなどの分野を牽引する企業と研究機関。このネットワークがプロジェクトを加速させる。本学が長年取り組んできた自動車工学の研究に、人工知能(AI)や自動運転などの先端技術を融合。2016年、「対話型自動車いす」の開発に成功した。
めざしたのは、「人のパートナーとなるノリモノ」である。利用者は、車いすと対話しながら行き先を決められる。高精度の位置認識技術によって、狭い場所でもスムーズに走行できる。ルートや障害物の存在を正確に認識するので、安心して乗ることができる。
このまったく新しいモビリティによって、障がいをもつ人や体の不自由な高齢者も安心して移動できるようになった。彼らの社会進出も容易になり、彼らをサポートする介護福祉の現場にも大きな変化をもたらしている。
さらに、このプロジェクトの先進性と独自性が認められ、文部科学省が進める「私立大学研究ブランディング事業(平成30年度)にも採択された。